海洋深層水利用し産業発展、人口減少危機の久米島

温度差発電でエネ自給、島嶼型コミュニティー構想も

 沖縄本島から約100㌔西方に位置する久米島(沖縄県久米島町)。人口1万人弱の小さな離島が今、深海から汲(く)み上げられる海洋深層水の有効活用で世界的な注目を集めている。「久米島モデル」と呼ばれ、将来的には海洋深層水を海洋温度差発電や水産業、農業などで複合的に利用し、エネルギー・食糧・水の自給自足で持続可能な島嶼型コミュニティーを創る計画構想がある。(那覇支局・豊田 剛)

海洋深層水利用し産業発展、人口減少危機の久米島

沖縄県海洋温度差発電実証設備(OTEC)

 2002年に2村が合併した時の久米島の人口は1万人を超えていたが、現在は8000人を割った。有識者が政策を発信する日本創生会議は、40年に若年女性が50%減る「消滅可能性」自治体に久米島町を分類した。

 人口減少の危機に直面している久米島にあって、救世主として期待されるのが海洋深層水関連産業だ。島の東部には関連産業の施設が集中している。

 その始まりとなったのは県営の沖縄県海洋深層水研究所だ。2000年に設立され、深海から汲み上げる海洋深層水を産業に利用するための研究を進めている。水深約600㍍の海底に設置されたパイプから1日当たり約1万3000㌧もの海洋深層水を汲み上げている。日本で3番目にできた海洋深層水設備だが、取水量は全国でも突出して多い。

 これを足掛かりに深層水を利用した産業が発展し、今では観光と並ぶ主要な島の経済の柱となっている。深層水関連産業は、水産養殖業、農業、化粧品、食品・飲料水製造にわたり、年間売上は約25億円で約150人の雇用を生み、将来的には1000人以上の雇用が期待される。

海洋深層水利用し産業発展、人口減少危機の久米島

海ぶどう養殖設備を案内した安里一月社長

海洋深層水利用し産業発展、人口減少危機の久米島

化粧品会社ポイントピュールのショップ

 海洋深層水は水温が年間を通じて8度程度と低く、清浄で、植物の成長に必要な窒素やリン、ケイ酸といった栄養分が多く含まれている。海洋深層水は主に水産業で利用されており、久米島の海ぶどうと車エビは全国トップの生産量を誇る。深層水の冷たさは研究所内の冷房にも使われており、さらに温かい表層水と冷たい深層水との温度差を利用して電気を生み出す実証実験を行っている。現在、久米島にあるのは世界に2カ所しかない海洋温度差発電の実証設備だ。

 沖縄県海洋温度差発電実証設備(OTEC)での実証事業を受託している(株)ゼネシスのコーディネーターの日比野時子さんは「久米島全体の消費電力量は6メガ㍗程度。当設備の発電規模は最大出力100㌔㍗で、現在発電した電力は設備内で消費している。将来的に、久米島町は海洋温度差発電を中心として、島のエネルギーの完全自給自足を目指している」と説明する。

 久米島海洋深層水開発株式会社は海洋深層水の効果を見越して、研究所ができた2000年に設立された。深層水100%のミネラルウォーター、食塩を販売。海ぶどうの養殖を手掛けた。

 沖縄県車海老漁業協同組合の代表理事組合長を務める安里(あさと)一月(いつき)社長は「車エビも海ぶどうも海洋深層水の活用なしには安定的な大量養殖はできなかった」と話す。

 海ぶどうは夏場に水温が高くなることで粒付きが悪くなる問題があったが、深層水で解決した。水温や水質の影響を受けやすいカキも、陸からの汚染の影響が極めて少ないため細菌が混入しにくい安全なカキの養殖も始まっている。

 深層水は、ホウレンソウなどの葉物を中心とした冷涼な気候で育つ野菜の栽培にも活用される。沖縄の夏場は高温のため露地で育てることが難しかったが、地中に埋めた送水管を通して冷たい深層水を流すことで栽培に成功した。

 深層水は化粧品にも応用されている。化粧品メーカーのポイントピュールは海洋深層水の清浄性を生かした純度の高い化粧品を生産している。同社の担当者は「化粧品の成分の8割は水。その水にこだわった結果が海洋深層水」と話す。沖縄独自の天然素材と組み合わせた化粧品は世界的に注目されるようになった。

 前出の日比野さんは、「海洋温度差発電は安定した再生可能エネルギーとしての期待が大きく、発電後の海水も活用できる可能性があり、経済効果が期待される」という。久米島では将来的には取水量を10倍に増やすのが目標だ。そうすれば、発電設備を新たに作った場合、島内の約2割の電力を賄うことも可能になるという。

 「人口減少を食い止めるには、産業を発展させること」と安里社長は強調する。目下、人材不足が課題だが、今後は、IT企業を誘致し、外国人の移住促進もするというビジョンを描いている。