議会と市民が「待った」 那覇市が進める新市民会館建設

 沖縄県那覇市の市民会館が、老朽化を理由に昨年10月に閉鎖した。それに代わる新施設を市内中心部に建設する準備が進められているが、地域住民が反発し、市議会は建設に待ったをかけている。翁長雄志知事が市長時代、公約に掲げた目玉プロジェクトは暗礁に乗り上げている。(那覇支局・豊田 剛)

工事に伴う渋滞に住民の不満が噴出

那覇市議会は予算案を否決

暗礁に乗り上げた那覇市が進める新市民会館建設

新市民会館のデザインや見取り図を説明する設計士=11月13日、沖縄県那覇市のパレット市民劇場

 翁長知事は那覇市長時代の2013年、那覇市寄宮にある市民会館が老朽化したことを受け、新市民会館の建設を決めた。21年の供用開始を目指している。新市民会館の名称は「新文化芸術発信拠点施設」。中心市街地の活性化につながるプロジェクトで、歩きながら楽しめる街づくりを目指す。

 建設予定地には統廃合となる旧久茂地小学校が選ばれた。片側1車線で日ごろから渋滞がひどい場所だ。現在は、急ピッチで同小学校の解体工事が行われている。

 9月末、解体工事に先立ち開かれた地域住民の説明会で、工事に伴う渋滞への不満が噴出した。がれき搬出のたびに、通りが一時的に封鎖され、地域住民の生活に影響が出たからだ。

 那覇市議会(翁長俊英議長)は9月25日、改選後初の本会議を開き、補正予算案から新市民会館の整備事業678万円を減額し、予備費に回す修正案を賛成多数(賛成22、反対16、退席1)で可決した。城間幹子市長を支える革新系が過半数割れしたことで、新市民会館の建設を見直す勢力が多数となったのだ。

 減額分の事業は、久茂地小学校跡地の隣接用地の取得に向けた土地の再鑑定額87万2000円と物件調査費591万5000円。市文化振興課は、「本体工事そのものや21年度の供用開始時期には影響しない」と強気の姿勢を示している。

暗礁に乗り上げた那覇市が進める新市民会館建設

老朽化により閉鎖された那覇市民会館

 ただ、市議会の承認なしには計画を先に進めることができない。そのため、危機感を抱いた市は急遽(きゅうきょ)、11月の広報誌に特集記事を掲載し、新市民会館の整備計画を期待する市民の声と共に紹介、新市民会館について説明するシンポジウムの開催を告知した。

 11月13日に開催されたシンポジウムでは、城間市長、設計会社の担当者、大学教授、障害者団体と文化協会の代表が登壇した。

 設計会社の担当者は、「沖縄らしい首里織をイメージし、柔らかく包み込むようなデザインにした」と説明。オープンスペースを広く作り、市民が集いやすい交流の場にしたい考えを示した。市当局は、「一括交付金を活用するには、工期を遅らせることはできない」と強調した。

 この日の登壇者は新市民会館の推進派だけで構成されていたため、出来レースの感があったが、質疑応答の時間になると一転して議論がヒートアップした。

 牧志公設市場組合の粟国(あぐに)智光組合長は、「(新市民会館予定地に面する)一銀通りから公設市場を結ぶ道路は現在でも渋滞がひどいが、さらに渋滞を悪化させ、市場を訪れる客の足を遠のかせてしまう」と述べた。別の市場関係者は、一括交付金を複数年かけて活用することにより、老朽化している市場の再整備計画が遅れるのではないかという懸念が生じていることを指摘した。

 他の参加者は、「候補地が現市民会館所在地、那覇新都心仮庁舎跡地、久茂地小跡と三つあったことを初めて知った」と驚き気味に話し、「なぜ一般市民に問わなかったのか」と不快感を示した。それ以外にも、「一括交付金ありきの事業であることがはっきりした」「周辺住民のほとんどは納得していない」など、否定的な意見が多かった。

 渋滞解消のために交差点を拡幅するなどの計画があるが、公明所属の市議は「小手先だけの道路整備では根本的な渋滞解決にはならない」と指摘。「計画を振り出しに戻す勇気が行政には必要」と述べた。

 市は、シンポジウムに続いて、市内4地区で議会報告会および意見交換会を開催したが、ここでも新市民会館について厳しい意見が相次いだ。

 現在、開会中の市議会12月定例会でも同様に、新市民会館に関して疑念の意見が目立った。

 粟国(あぐに)彰市議(自民)は「シンポジウム開催そのものを知らなかったという自治会の意見があった」と指摘。奥間亮市議(同)は「広報誌の説明は極めて不十分。『久茂地は渋滞がひどく、観光客の増加に伴う交通渋滞の影響を受けやすいので、場所を変更すべき』という市民の皆様の声がどんどん多くなっている」と問い詰めた。

 翁長市長時代の巨大なシンボル像「龍柱」の失敗と同じ過ちを犯したくないという考えが市議会の主流を占める。それは、当初は約2億6000万円の8割を一括交付金で賄う予定だったが、工事の遅れなどに伴い交付金の未執行分を次年度に繰り越すことができず、大半が市の負担になったものだ。

 新市民会館建設は、市政100周年事業の目玉として翁長知事が「私案」として提案して決められ、後継者の城間市長が取り組んでいるが、この計画が頓挫すれば、両者の面目は丸つぶれとなる。