辺野古移設、県議会が「工事差し止め訴訟」可決

翁長知事は再び国と法廷闘争へ、提訴関連費500万円超も承認

 沖縄県議会の6月定例会は14日、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設問題をめぐり、埋め立て工事の差し止めを求める訴訟の提起および訴訟関連費用500万円超を可決、承認して閉会した。今月中にも翁長雄志知事は再び国を相手取り那覇地裁に提訴する見通しだ。(那覇支局・豊田 剛)

自民党・照屋県議「もっと政府と交渉せよ」

自民党・山川県議「提訴の資格要件に疑問」

辺野古移設、県議会が「工事差し止め訴訟」可決

辺野古差し止め訴訟の提起で反対討論する山川典二県議(手前)=14日、沖縄県議会

 今年に入り、宮古島、浦添、うるまと三つの市長選で、翁長氏応援の候補が敗北した。9日投開票の那覇市議選でも、翁長氏を支える勢力のうち、保守系現職が大きく後退した。「民意」を盾に普天間飛行場の辺野古移設阻止を掲げてきた翁長知事が求心力を失いつつある中、巻き返し策として力を投入しているのが、国と改めて争う裁判だ。

 県議会は14日、翁長氏が提起した辺野古埋め立て工事で起こり得る岩礁破砕の差し止め訴訟に関する議案と、弁護士3人分の費用517万2000円の補正予算案を与党の賛成多数で可決した。野党の自民、中立会派の維新は反対し、同じく中立会派の公明は退席した。

 県は、政府が県の漁業調整規則に定められた知事の許可を得ずに岩礁破砕を行うのは「違法」だと主張している。ただ16日時点で岩礁破砕は確認されていない。

 県が根拠とする沖縄県漁業調整規則39条はこう規定している。

 「漁業権の設定されている漁場内において岩礁を破砕し、又は土砂若しくは岩石を採取しようとする者は、知事の許可を受けなければならない」
 辺野古沖の岩礁破砕許可は3月末で期限を迎えたが、地元漁協が漁業権を放棄したことを理由に、政府は許可を更新せず、4月25日に埋め立て護岸工事に入っている。

 これに対して、県は4月以降も許可更新が必要として5月29日、防衛局長宛てに通知したが、防衛局は6月1日付で申請する意思はないと回答した。

 県は昨年、翁長氏が前知事による辺野古の埋め立て承認を取り消したことで国に敗訴したが、その際、約9000万円の裁判費用を投じている。

 今回の採決に際し反対討論を行った照屋守之県議(自民)は、「(岩礁破砕の)事実がないのに何かの恐れがある、可能性があるからと提訴するのはいかがなものか」と疑問を呈した。

辺野古移設、県議会が「工事差し止め訴訟」可決

辺野古差し止め訴訟の「訴えの提起」議案の採決では与党議員が起立した=14日、県議会

 照屋氏はまた、一般質問で新里勝也農林水産部参事が漁業権限を持つ地元漁協と「訴訟の提起について意見交換をしたことがない」と答弁したことを問題視。「革新の大田昌秀知事でも橋本龍太郎首相と17回にわたって交渉した」ことを引き合いに、政府と直接、交渉するのが望ましいと締めくくった。

 また、山川典二県議(自民)は、「提訴の論理構成、資格要件が疑わしい。明らかに無理がある提訴をせざるを得ないほど追い込まれた翁長県政はレームダック状態だ」と指摘。さらに実際に移設に伴う埋め立て工事が始まっていて、「辺野古に新基地を造らせない」という翁長氏の公約は破綻していると強調した上で、「今回の訴えは勝訴の確率が非常に低く、時間稼ぎであり、無駄にお金がかかるものだ」と述べた。

 賛成の立場で討論した瀬長美佐雄県議(共産)は、「辺野古の海を埋め立てられれば、強襲揚陸艦が寄港する耐用年数200年間の基地ができる」と述べた。

 採決で退席した公明は、金城勉県議が「辺野古移設には反対の立場」を示す一方で、「訴訟提起が得策かと考えるとかなり厳しい。政府との信頼関係を回復し、協議を重ねる中での打開策を見つけ出すべき」と訴えた。

 議会最終日には、県公安委員の天方徹氏が任期満了になるのに伴い、沖縄弁護士会の阿波連光元会長を後任に充てる人事案についても可決された。ただ、この人事案の委員会採決では、自民と公明が人選の過程で不透明な部分があるなどとして退席した。

 これについて自民の照屋氏は、2014年末に翁長県政が発足して以来、任期半ばで辞任した諸見里明教育長、任期途中で退職要求を受けたとされる伊江朝次病院事業局長を例に挙げ、翁長氏の「選挙論功人事」により「政治的中立性が危ぶまれる」と強調。天方氏の件について「第三者委員会を設置して調査し、その結果を県民に公開すること」を求めた。

 この他、沖縄県立普天間高校(宜野湾市)のキャンプ瑞慶覧西普天間住宅返還跡地への移転推進で国の協力を求める意見書や北朝鮮の日本人拉致問題解決に取り組むよう国に要請する意見書などは全会一致で可決した。