韓国徴用工像、政権交代で設置拍車


来月ソウル、来年平壌でも

 戦前、日本統治下にあった韓半島から動員され、炭鉱などの労働現場に送られたとされるいわゆる韓国人徴用工を追慕する銅像を韓国各地で設置する運動が、文在寅政権誕生を機に再び活発化している。設置運動には親北朝鮮の国会議員や市民団体が関与し、慰安婦問題と同様に背後に北朝鮮による反日工作があるとの疑惑も出ている。
(ソウル・上田勇実)

徴用工像のレプリカ

先月16日、徴用工像設置が検討されているソウル龍山駅前広場で徴用工像のレプリカの横に立ち像設置を訴える女性(ウリギョレハナテギ運動本部提供)

 韓国で徴用工像設置を進めているのは韓国二大労働組合である韓国労働組合総連盟(韓国労総)と全国民主労働組合総連盟(民主労総)が主導する「強制徴用労働者像建立推進委員会」。ソウルの場合、首都圏の労働者が一時集合したとされるソウル龍山駅前広場の国有地に今年3月、像を建てる計画だったが、朴槿恵前政権は日韓「慰安婦」合意を履行する関係から敷地提供に難色を示し保留となっていた。

 しかし、5月に文政権が発足すると、同推進委は政府との協議を再開させることにし、来月中旬をメドに龍山駅前広場に設置したい考えだ。像設置に関わる厳美京・民主労総統一局長は「政権交代で活動しやすくなると期待している」とし、敷地確保について「国が解決すべき課題であり、われわれが国から買い取るのではなく、国が提供してくれる方向で話を進めるつもり」と強気の姿勢だ。

韓国における徴用工像設置は2014年に二大労働団体が日本における韓半島出身徴用工の現場を視察したのがきっかけ。昨年は、現場の一つだった京都府の丹波マンガン鉱山跡に造られた「丹波マンガン記念館」に韓国で製作された徴用工像が建てられた。

 厳局長によると、徴用工像設置は来月12日に龍山駅前広場と三菱重工業の軍需工場跡に造成された仁川市の富平公園の2カ所にそれぞれ一体ずつ設置されるのを皮切りに国内6カ所で計画。このうち釜山は日韓合意後の慰安婦像設置で物議を醸した日本総領事館前が予定されており、日韓関係の新たな火種に発展する可能性もある。

 また来年は北朝鮮の平壌にも設置することを検討中で、北朝鮮の「朝鮮職業総同盟」とはすでに合意済みだという。

親北派関与は「反日教示」感化か

 同推進委の母体は労働団体だが、親北派の顔触れも目立つ。特に民主労総と共に像設置を熱心に進める「ウリギョレハナテギ(私たち民族が一つになる)運動本部」(略称キョレハナ)はもともと南北交流事業に力を入れてきた団体だったが、釜山慰安婦像の設置・運用に深く関わり、「歴史認識の歪曲や軍事大国化をもくろむ日本を非難する反日などへ路線転換した」(釜山キョレハナ関係者)とみられている。

 慰安婦問題で日本政府糾弾デモの先頭に立っている市民団体「韓国挺身隊問題対策協議会」の尹美香常任代表が同推進委の共同代表に名を連ねている点もいぶかしい。尹代表の夫は90年代に起きたスパイ事件での有罪が今年3月の大法院(最高裁判所)再審で確定したほか、尹代表自身も13年と昨年に警察や情報機関から国家保安法違反容疑で電子メールを家宅捜索されたり、通信記録を内偵捜査された。

 韓国の親北派が慰安婦問題や徴用工像設置などの「反日」運動に執拗(しつよう)に肩入れする実態について韓国親北派の情勢に詳しいインターネットメディア「メディアウォッチ」の黄意元代表はこう指摘する。

 「70年代、北朝鮮の金日成主席が南朝鮮(韓国)という“帽子”を揺さぶるにはこれを支える日本と米国という左右の“あご紐”を切ってしまえばいいという『あご紐戦術』を教示した。これに感化されている可能性がある」

 約40年前の北の「反日教示」が現在の慰安婦・徴用工像問題に影を落としているとすれば、問題の根は深い。