南西諸島での防衛力空白を早期解消へ
陸自与那国駐屯地、開設1周年の記念式典開催
日本最西端の与那国島に陸上自衛隊西部方面隊(熊本、小川清史総監)直轄の与那国駐屯地(沖縄県与那国町)が開設1周年を迎え、23日には記念式典が開催された。地元の人々の暮らしに安心・安全な生活を保障するだけでなく、経済効果をもたらしている、と評価する声が聞かれた。(那覇支局・豊田 剛)
塩満司令「奄美、石垣、宮古島の模範に」
島民の安全に貢献、経済効果の声も
北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射の軍事挑発を繰り返し、尖閣諸島には、領有権を主張する中国当局の船が領海侵入を続けるなど北東アジア情勢は不安定さを増している。
国境の島である与那国島は、沖縄本島南西約500キロに位置する。台湾から111キロ、石垣島から117キロ、尖閣諸島からは約150キロの距離にあり、地域の安全保障に直結する要の島だ。
沖縄が日本に復帰した翌年の1973年、与那国町議会は自衛隊配備要請決議を可決した。議会が2008年1月にようやく自衛隊誘致の方針を決めたことを受け、翌年6月に自衛隊の誘致を防衛省に要請した。15年2月に行われた自衛隊基地建設の是非を問う住民投票では賛成が過半数となった。こうした経緯を経て、昨年3月28日に駐屯地が開設された。最初の決議から43年越しの悲願実現だったと言える。
与那国駐屯地には、船舶や航空機を監視する与那国沿岸監視隊、通信情報隊収集小隊など五つの組織が新編され、隊員160人とその家族100人が移り住んだ。
その結果、小学校で複数の学年が一緒に勉強する複式学級が解消され、約30人が幼稚園に入園した。年間1500万円の駐屯地賃貸料を活用し、中学校までの給食費無料化も実現した。
式典には地元選出の複数の与党の国会議員、自民党政務調査会の田村重信調査役、さらには、岡部俊哉陸上幕僚長、与那国防衛協会の金城信浩会長ら地元の自衛隊協力者ら約80人が来賓として出席した。そのうち、約半数は与那国町民だ。
式典ではまず、安倍晋三首相による「この地域において自衛隊がしっかりとした存在を示し、日々、着実な任務を遂行することは、わが国の平和と安全、ひいてはアジア太平洋地域の平和と安定のため、極めて大きな意義を有するものです。わが国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、今後とも、南西地域における自衛隊の態勢強化を図ってまいります」とのメッセージが披露された。
防衛省には今後、奄美大島に約550人、宮古島に700~800人、石垣島に500~600人規模の警備部隊と地対空・地対艦ミサイル部隊を配備する計画がある。
これに関して、小林鷹之防衛政務官は式辞で、駐屯地開設は「南西地域における防衛体制強化の端緒を開くもので重要な意義がある」とし、「南西諸島で防衛力の空白を早期に解消することが極めて重要」と訓示した。
主催者側からは駐屯地司令兼与那国沿岸監視隊長の塩満大吾2等陸佐が登壇、「南西地域が国際社会の安全保障上の懸念となっている中、基本任務である情報収集や災害派遣をしながら、地元とのつながりを緊密にしている」と強調した。
塩満司令は、式典後の会食のあいさつで、南西諸島の自衛隊協力者の日ごろの協力と理解に謝意を示した上で、「与那国駐屯地は今後、配備される石垣島、宮古島、奄美大島の防衛の良き模範となれるよう精進したい」と述べた。
自衛隊誘致に尽力した外間守吉与那国町長は式典後の会見で、自衛隊が抑止力として島の安心・安全な暮らしに貢献していることを指摘した。駐屯地前で10人程度の活動家が抗議活動を行っていたことについて、「地元の人は3、4人」とした上で、「配備を着々と進めてきて、住民の皆さんが理解しているものだと思っている。家族同士、集落同士が自然な形で集まっている」と述べた。自衛隊配備をめぐる住民同士の軋轢(あつれき)はほぼなくなったという認識だ。
また、「居酒屋などの飲食店は予約しないと入れなくなった」と経済効果も指摘、今後は地下ダム建設や空港・港湾の拡張、ごみ焼却炉建設などインフラ整備に着手したい考えを示した。