教育現場への領土問題取り入れ課題
玉津博克前石垣市教育長に聞く
尖閣は「日本政府が管理」と教えよ
沖縄県石垣市は尖閣諸島を有する国境の島で、教育の中に領土問題をどのように取り入れていくかが課題になっている。八重山地区採択協議会の中学教科書選定の改革を断行した玉津博克・前石垣市教育長に尖閣諸島問題をどう教育現場に取り入れるのか、公正な歴史教育の在り方、教科書採択の苦労話などについて聞いた。(那覇支局・豊田 剛)
教科書選定は順法精神で/中学生用の歴史副読本を改定
――尖閣諸島の領有権を中国が主張している。教育現場は尖閣をめぐる領土問題をどう伝えればいいか。
尖閣列島をどうとらえるかというと、歴史的にわが日本の領土で石垣市が管轄する島々である。日本政府がしっかり管理するということを、しっかり教育すべきだ。
尖閣列島は歴史の流れの中で日本に組み込まれた揺るぎのない領土。領土や国民をしっかり守ることを伝える必要がある。
――2012年に尖閣諸島が国有化されて以来、中国公船の領海侵犯が増えたが、国有化そのものをどう評価するか。
領土の保全を考えると国有化したことは何らかの対策を打てることを意味するから有効だ。国有地ではなくとも市有地でもよかったと思う。民有地のままだと、外国人など誰が買うか分からない。
――2011年の教科書採択では、中学・公民の教科書で育鵬社版を採択したことで激しい反対に遭ったが、屈しなかったのはどうしてか。
ほとんどの教科書は尖閣列島、竹島、北方領土などの領土問題の記述が不十分だったり、ほとんど書かれていない教科書もあった。領土問題が書かれている教科書が選ばれたことは順当だったと思う。
なぜ従来の教科書に反対したのかを議論する以前に、なぜ選び方を変えたのか説明する必要がある。教科書の順位付けと1種絞り込みの廃止をし、さらに、教科書採択協議会のメンバー構成を変えた。教育委員会は、忙しくて教科書を読む時間がない補助職員が選ぶのはおかしいと思って、選び方を変えた。反対した人々は専門家である指導主事、教員が選ぶべきだと主張している。
教育委員は皆、実績のある教育の専門家の集まりである。教員以上に幅広い視点で物を見ることができる。現場の教師だけが選ぶべきだという考えは、法律とは関係ない話だ。教員と教科書会社との利権構造が崩れることを恐れていたのではないか。私は順法精神に従っただけだ。
教科書採択で、マスコミからバッシングを受けた。狙いは私を追い詰めることだったのだろうが、私は間違ったことをしていないから最後まで貫徹するしかなかった。マスコミのもう一つの狙いは、「第2の玉津を出さない」ということだ。教科書採択の改革が県内、全国各地で起きないように徹底して叩こうとした。そうすれば、全国各地の教育長らは「第2の玉津になりたくない」と恐れるようになり、改革をためらうであろう。
――翁長知事は沖縄方言「しまくとぅば」を教育の中に入れるよう呼び掛けている。沖縄方言と言っても、首里、那覇、やんばる地方、宮古、石垣、与那国など、多種多様だ。この取り組みはうまくいくと思うか。
学校教育としては無理な話で、教育行政が音頭を取ってやることではない。方言は学校教育でやるのではなく、地域で推し進めるもの。地域社会はできる限り方言を大事にすべきだ。
――平和教育の在り方についてはどう思うか。
沖縄本島では地上戦が行われた。反戦平和教育では「軍隊は国民を守らない」という場面に特化した教育をしている。戦争全体の中で、軍隊の本質を知り、さらに深めていくというのが基本だ。それをしないことに作為を感じる。沖縄戦は第2次世界大戦の大きな流れの中で起きた。
集団自決問題では軍命ありきの教科書が副読本として長い間、使われている。石垣市は今年、中学生用の副読本を作り直した。以前のものと比べ、従軍慰安婦と南京大虐殺の記述が穏やかなものになった。南京大虐殺ではなく、「南京事件」という名称に変更した。慰安婦にしても連行された証拠になる記録や文献がないから断言することはできない。
しかし、副読本にはいまだに戦艦大和が掲載されていない。事実として、伝えるべきことはしっかり伝えなければいけない。
=メモ=玉津博克(たまつ・ひろかつ)
石垣市出身。金沢大学で史学専攻。高校社会科教諭を経て、沖縄県教育庁文化課指導主事、沖縄平和祈念資料館主査、八重山高学校長など歴任。2011年から14年まで石垣市教育委員会教育長を務める。






