沖縄科学技術大学院大学が臨海実験施設を開所

地域の水産業の振興・発展目指す

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)はこのほど、沖縄県恩納村のメインキャンパスに近い漁港に「マリン・サイエンス・ステーション」と呼ばれる臨海実験研究施設を開所した。同大学がキャンパス外に施設を設けるのは初めて。沖縄周辺海域のサンゴやモズクの生態系解明など、沖縄の地理的利点を生かした海洋研究実験拠点として注目される。(那覇支局・豊田 剛)

モズクの安定供給やサンゴ白化防止などの研究拠点に

沖縄科学技術大学院大学が臨海実験施設を開所

インタビューに応じる佐藤矩行教授=沖縄県恩納村の沖縄科学技術大学院大学メインキャンパス

 マリン・サイエンス・ステーションがあるのは、海ぶどうの養殖が盛んな恩納村瀬良垣港。OISTから車で10分ほどという好立地だ。総事業費は約5億円。地上2階建てで建築面積は約1200平方㍍。施設には約80の水槽・タンク、水深3㍍のプールが配備され、海洋にかかわる実験研究ができる。

 今は研究の準備段階で、すべての水槽に海水を注げるようになる年内に研究施設の運用を始める。OISTだけでなく、国内外の研究者が利用、地元の漁協との共同研究も期待される。

 これまで海洋生物を採取するための専用施設がなく、沖縄本島北部の瀬底島(今帰仁村)にある琉球大学の瀬底研究所などで研究をしていた。「海洋研究を盛んにしたい」というOISTの希望もあり、同ステーション開設に至った。

 ジョナサン・ドーファン学長は開所式典で「世界最高水準の研究施設がもう一つ誕生し、その開設に携われたことは名誉なこと」とした上で、「今後、何百人、何千人という学生や研究者が世界中から訪れるだろう」と述べた。

 恩納村の長濱善巳村長は、「OISTと漁港が連携を密にし、海ぶどうやモズクなどの養殖技術の向上、海洋深層水の開発や研究」などをすることで、地域の水産業の振興・発展につながればと期待を示した。

 プロジェクトの中心となっているのは、海洋生物のゲノム(全遺伝情報)解析に取り組む佐藤矩行教授だ。2011年のOIST開学前の準備機構から関与している佐藤氏は、世界で初めてサンゴのゲノム解読に成功した。その2年後にはサンゴに共生している褐虫藻のゲノムも解読した。

沖縄科学技術大学院大学が臨海実験施設を開所

水槽がたくさん設置されているマリン・サイエンス・ステーション=沖縄県恩納村の瀬良垣漁港

 ステーションでは、佐藤教授の研究グループが、サンゴ、オニヒトデ、ハゼなど沖縄および近海に生息する動物や、モズクや海ぶどうなど沖縄で栽培されている海藻類を生育・実験する。

 「将来、沖縄の産業自立に役立つことはOISTの使命の一つだ」という佐藤教授。日本国内で養殖されるモズクの99%は沖縄県で生産されている。モズク養殖は県内の主要産業だ。ところが、モズクは、冬場の日照時間が短く、海水温が高いなどの条件下では収穫が少なくなるなど、安定生産が課題となっている。佐藤教授は、どの種類のモズク株が高温に強いかなどを研究する中で、安定供給を確保させることを目指す。

 ステーションの運営開始に先立ち、OISTと沖縄県水産海洋技術センターなどの研究チームは、モズクの全遺伝子情報(ゲノム)の解読に成功した。モズク類の養殖技術や新品種の開発、フコイダンなどの機能性成分を生かした産業利用の活性化につながるとして期待が高まる。

 また、沖縄の海域ではサンゴの白化をいかに食い止めるかが課題になっている。5年ほど前から県がサンゴ礁の回復のために株の植え付けに取り組んでいる。

 御手洗哲司准教授を中心とした海洋生態物理学ユニットでは、サンゴ礁の周りを流れる海流がサンゴの白化に及ぼす影響を研究。顕微鏡を使った観察や遺伝子レベルの解明を進める。

 さらに、新竹積教授の量子波光学顕微鏡ユニットは、地球温暖化を踏まえ、再生可能エネルギーとして期待が高い波力発電の技術開発を進めている。