比ダバオの無差別爆弾テロ 麻薬組織、アブサヤフと共謀か
ドゥテルテ大統領の地元で発生
治安対策への反発が動機
フィリピン南部ダバオ市で2日夜、強力な爆発があり、これまでに15人が死亡し70人が負傷した。同市はドゥテルテ大統領の地元で、国内有数の治安が良い都市として知られており国民に衝撃が走った。犯行をめぐっては、イスラム過激派が犯行を認めているほか、麻薬組織の関与も指摘されるなど、ドゥテルテ氏の治安対策に対する反発が動機とみられている。
(マニラ・福島純一)
ドゥテルテ政権による麻薬戦争は激化しており、10日までに、警官に射殺された容疑者は1466人となり、正体不明の処刑人によって殺害された容疑者は1490人となった。また逮捕者は1万6000人を超え、自首した密売人や麻薬常習者は70万人以上に達している。
2日に爆発があったのは、食べ物や古着を売る露天商が立ち並ぶナイトマーケットで、当時、多くの市民でにぎわっていた。目撃者によると、容疑者は3人の男女で、現場で営業していた屋外マッサージ店を利用しており、彼らが立ち去ったあとに爆発が起きた。警察当局によると爆発したのは手製爆弾で、事件現場から回収された破片から、迫撃砲弾を使った爆弾で起爆に携帯電話が使用されていたことが分かっている。砲弾を二つ使用して殺傷能力を高めており、多数の死傷者を出すことが目的の無差別テロだったことがうかがえる。
イスラム過激派アブサヤフのスポークスマンが事件の翌日に犯行を認め、「国内の聖戦士」に結束を呼び掛けるとともに、近いうちに似たような攻撃を再び実行すると警告した。ドゥテルテ大統領は同日、全国に「無法状態」を宣言し警察に加え国軍兵士も動員して各地に検問を設置し警戒を強めるよう命じた。マニラ首都圏警察も警戒を最高度に引き上げ、商業施設や空港などで警備を強化し、テロに備える方針を示した。
ダバオ市はドゥテルテ氏が長年にわたって市長を務めていたことで知られ、処刑部隊による犯罪者の暗殺など、強権的な治安対策で国内有数の安全な都市になったことで知られている。しかし、2003年にダバオ国際空港で爆弾が爆発し21人が死亡するなど、イスラム過激派によるテロがたびたび発生している。昨年9月にもダバオ市の沖にあるサマル島のリゾート施設で、外国人3人とフィリピン人女性1人がアブサヤフによって誘拐される事件が起きており、イスラム過激派対策が大きな課題となっていた。
ドゥテルテ氏は、フィリピン南部や周辺諸国で、身代金目的の誘拐と人質の殺害を繰り返すアブサヤフに対し、国軍による掃討作戦を強化する方針を示しており、アブサヤフの拠点であるスルー州では、8月末に20人以上のアブサヤフのメンバーと国軍兵士15人が死亡している。今回の爆弾事件は、その報復としてドゥテルテ氏の信頼を失墜させるために、同氏の地元であるダバオ市を狙った可能性も指摘されている。ドゥテルテ氏は大統領就任後も、ダバオ市を生活の拠点としており、事件当時も市内に滞在していた。
司法省は10日、爆弾事件の主犯とみられる、マギンダナオ州タリタイ町の副町長を逮捕したことを明らかにした。副町長は妻と2人のボディーガードと一緒にいたところを8日にコタバト空港の近くで警察によって逮捕された。警察によると副町長の属するグループから、迫撃砲弾を使った爆弾や拳銃、麻薬などが押収されたという。この副町長はドゥテルテ氏が発表した、麻薬容疑者リストに名前が載っていた人物で、政府による違法薬物への取り締まり強化に対する報復で犯行を行った可能性がある。また14日までに容疑者9人が特定され書類送検されている。
犯行声明を出したアブサヤフと副町長の関連は不明だが、国家警察長官のデラロサ氏は、麻薬シンジケートが資金を提供してイスラム過激派にテロを実行させた可能性を指摘している。
麻薬組織の事件関与が本当ならば、今後も報復として同様の事件が繰り返される可能性も高い。治安改善を公約として掲げるドゥテルテ政権にとって、情報収集などのテロ対策の強化が大きな課題となりそうだ。