国との三つの裁判抱える翁長雄志沖縄県知事

辺野古埋め立て申請承認取り消し

普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に伴う埋め立て申請承認を取り消したことで、翁長雄志知事は国を相手に三つの裁判を抱えている。それに加え、辺野古移設をめぐって宜野湾市民が訴訟を起こし、四つの裁判に関与するという異常事態だ。北朝鮮が弾道ミサイルを発射し、緊張感が走る中、辺野古問題に傾注し過ぎる翁長氏の言動に県民の不信感は高まっている。(那覇支局・豊田 剛)

北ミサイル通過も非難せず/PAC3精度には言いがかり

 北朝鮮が事実上の弾道ミサイルを発射した7日、上空を通過する危険があった石垣市の中山義隆市長は作業着姿で緊急事態に備えていた。石垣市議会は12日、臨時議会を開き、北朝鮮に対する抗議と国際連携によるミサイル開発断念を求める意見書を全会一致で可決。中山氏も北朝鮮を強く非難した。

国との三つの裁判抱える翁長雄志沖縄県知事

辺野古問題で訴訟が行われている那覇地方裁判所

 これに対し、翁長氏からは北朝鮮に対する非難の言葉は聞こえない。それどころか、石垣、宮古両島に設置された地対空誘導弾パトリオット(PAC3)については「一体全体、どんな精度があるのか、素人には分からない」と懐疑的な見解を示した一方で、自衛隊員に対する感謝や慰労の言葉はなかった。

 翁長氏は石垣市の尖閣諸島の領空・領海侵犯を繰り返す中国に対しても非難の声明を発表しない。ところが、基地問題となると、日本政府や米国に対しては臆することなく厳しい言動に出る。

 PAC3配備について「県民に説明する中から慎重に判断してもらいたい」「痛しかゆしというか、沖縄の置かれている環境の難しさを感じる」と述べた。ここに翁長氏の本音が出ている。

 翁長氏が主張する「オール沖縄」は共産、社民、沖縄社会大衆党(社大)といった革新政党が主な支持母体になっている。共産は自衛隊や日米安保に反対の立場。毎年、那覇で開催される金正恩第1書記の生誕と就任を祝賀するチュチェ(主体)思想セミナーには社民党議員も参加。社大委員長の糸数慶子参院議員(無所属)は北朝鮮のミサイル非難決議を棄権した。

 ある保守系県議は「知事がどういう思想信条であるかは、知事に就任してからこれまでの言動を見れば一目瞭然」と話す。「『保革の違いを乗り越える』と言いながらも共産、社民両党の思想に限りなく近い翁長氏の政治姿勢は沖縄に不幸をもたらすだけ」と厳しい見方をする。

 その結果として、県は現在、三つの裁判を同時に抱えてしまっている。いずれも、仲井真弘多前知事が2013年に承認した普天間飛行場の代替施設建設のための辺野古沿岸埋め立て申請を、翁長氏が、周辺諸国の安全保障を度外視しイデオロギーに基づいて取り消したことに端を発する。

 国が沖縄県を提訴している「辺野古代執行訴訟」の第3回口頭弁論が1月29日、福岡高裁那覇支部(多見谷寿郎裁判長)で行われ、高裁は二つの和解案を提示した。

 一つは、国が代執行訴訟を取り下げて工事を中止し、県と再協議をする「暫定的解決案」。もう一つは、県が承認取り消しを撤回する代わりに、代替施設の使用期限を30年とする「根本的解決案」だ。

 国としては工事の中断には応じられないため暫定案には応じられない。一方、「辺野古に新基地はつくらせない」ことを公約とする翁長氏と県が、期限付きでも代替施設の建設を受け入れるのは不可能だ。双方の意見が平行線のまま結審する可能性が高い。

 翁長氏は15日、当事者尋問に立ち、「暫定案について前向きに検討する」と回答した。29日には稲嶺進名護市長が証人台に立つ。政府は否定的姿勢を崩していない。

 また、総務省の「国地方係争処理委員会」が県の不服申し出を却下したことを受け、県は今月1日、国に執行停止の取り消しを求めて福岡高裁那覇支部に提訴。この裁判も15日に行われた。この日は、国が原告の代執行裁判と並行するという異例の事態となった。

 一方、辺野古沿岸部の埋め立て承認取り消しの効力を執行停止した国土交通相の決定について、県が昨年12月25日、取り消しを求めて那覇地裁に提訴した「抗告訴訟」があるが、第1回口頭弁論はまだ開かれていない。

 埋め立て承認取り消しをめぐっては、宜野湾市民112人も県と翁長氏を訴えている。普天間飛行場が固定化してしまうため、住民の生存権が脅かされると主張。市民らは、承認の取り消し無効化と損害賠償を翁長氏に求めている。23日には第2回公判が開かれる。

国との三つの裁判抱える翁長雄志沖縄県知事

国対沖縄県の三つの裁判

 国と争っている三つの裁判、さらに、宜野湾市民訴訟のすべてで県が敗訴することも考えられる。それでも、「沖縄が国にいじめられているという図式がさらに明確になり、知事の求心力はむしろ高まる可能性もある」と自民党県連幹部は警戒感を露(あら)わにした。