「そうりゅう型」採用が有力 豪潜水艦受注競争で米専門家

日米豪の対中抑止力を強化

 【ワシントン早川俊行】米有力シンクタンク、ハドソン研究所のアーサー・ハーマン上級研究員は、世界日報の取材に応じ、日本とドイツ、フランスが受注を争うオーストラリアの次期潜水艦開発計画について、豪政府は性能面や戦略的利益から日本の「そうりゅう」型潜水艦を採用するとの予想を示した。そうりゅう型の採用は、日米豪のインターオペラビリティー(相互運用性)を高め、海洋進出を図る中国に対する抑止力向上につながると強調した。

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 アーサー・ハーマン氏 米ジョンズ・ホプキンス大で博士号取得。アメリカン・エンタープライズ政策研究所(AEI)客員研究員などを経て、現在、ハドソン研究所上級研究員。歴史家として8冊目の著作となるダグラス・マッカーサー元帥の伝記が今年出版される。

 ハーマン氏はそうりゅう型について、「通常動力潜水艦では世界で最も静音性が高く、探知が難しい」とし、性能面でドイツ、フランスの潜水艦より優位にあると指摘。また、ドイツ、フランス製の潜水艦に米国が最新鋭戦闘システムを供与する可能性は「限りなく低い」との見方を示した。

 そうりゅう型採用なら米国は最新鋭システムを供与するとみられ、ハーマン氏は日米豪のインターオペラビリティーが対中抑止力の向上に欠かせない要素であると強調。「豪州が8~12隻のそうりゅう型潜水艦を保有しただけでは、中国に南・東シナ海で攻撃的行動を躊躇(ちゅうちょ)させるには至らない。だが、日本の潜水艦17隻と米国の潜水艦75隻を合わせれば、68隻の中国の潜水艦隊は印象的に見えなくなる」と指摘した。

 日本政府が当初消極的だった豪国内での建造に前向きに取り組む方針を示したことについて、ハーマン氏は「重大な転換だ」とし、現地雇用面でのドイツ、フランス案の優位性は薄れたとの認識を示した。

 豪政府がそうりゅう型を採用すれば、中国の反発を招く可能性が高いが、ハーマン氏は中国との経済関係よりも日米との安全保障協力を優先すると予想。「アボット前首相は本能的直観として、豪州の将来は中国ではなく日本との友好・同盟に懸かっていることを理解していた。ターンブル首相は直観ではなく合理的な自国利益の問題として同じ結論に達するだろう」と指摘した。

 日本が受注に成功すれば、安倍政権が武器輸出三原則に代わる防衛装備移転三原則を決め、武器輸出に道を開いてから初の大型案件となる。ハーマン氏はこれが日本の防衛産業界にとって大きな「自信」となり、今後の武器輸出に弾みがつくとの見通しを示した。

「そうりゅう」型潜水艦性能・戦略両面で豪に利益

米ハドソン研究所アーサー・ハーマン上級研究員との一問一答

オーストラリアにとって日本の「そうりゅう」型潜水艦を採用する利点は。

 そうりゅう型は世界最大級の通常動力潜水艦だ。豪州の次期潜水艦は原型のそうりゅう型よりさらに大きくなる。また、通常動力潜水艦では世界で最も静音性が高く、探知が難しい。

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海上自衛隊の「そうりゅう」型潜水艦の「こくりゅう」(海上自衛隊ホームページより)

 さらに、長い航続距離を可能にする最新のリチウムイオン電池を搭載し、新型のシュノーケルシステムによって台風などの悪天候下でも潜航しながら電池を充電することができる。ドイツ、フランスの潜水艦と比べ、潜航深度でも優れている。

米政府はそうりゅう型採用を支持していると言われる。

 豪州の現潜水艦は、米国製戦闘システムAN/BYG1を搭載しているが、米国はこれを日本を含め他の同盟国には供与していない。ドイツ、フランス製の潜水艦に米国が現在のシステムの改良、または次世代型システムの供与に応じる可能性は限りなく低い。

 そうりゅう型なら米国は最新鋭システムを供与するだろう。また、将来、日本に対しても供与する可能性が高い。

 米国がそうする理由は、インターオペラビリティー(相互運用性)のためだ。日米豪の戦闘システムは情報やデータを共有でき、危機の際は事実上一体となって機能する。これは重要なフォース・マルチプライヤー(戦力倍加要素)だ。

豪州のそうりゅう型採用は、対中抑止力をどう高めるか。

 抑止力はインターオペラビリティーというフォース・マルチプライヤーにかかっている。豪州が8~12隻のそうりゅう型潜水艦を保有しただけでは、中国に南・東シナ海で攻撃的行動を躊躇(ちゅうちょ)させるには至らない。だが、日本の潜水艦17隻と米国の潜水艦75隻を合わせれば、68隻の中国の潜水艦隊は印象的に見えなくなる。

日本政府は消極的だった豪国内での建造に前向きに取り組む方針を表明した。

 重大な転換だ。今回の受注競争でドイツ、フランスが強みにしていたのは広報活動、つまり、日本よりも現地の雇用を増やすというアピールだった。だが、日本は今、戦略的・軍事的利益だけでなく、豪国内での建造を含め経済的利益を強調することがいかに重要であるかを理解している。

そうりゅう型の採用は豪州にとって対中関係悪化のリスクを伴う。豪政権は中国との経済関係と、日米との安全保障協力のどちらを優先するだろうか。

 ターンブル豪首相は日米との協力を選ぶと思う。アボット前首相は本能的直観として、豪州の将来は中国ではなく日本との友好・同盟にかかっていることを理解していた。ターンブル首相は直観ではなく合理的な自国利益の問題として同じ結論に達するだろう。これは米国と緊密な協力の基礎を築くことにもなる。

日本が受注に成功すれば、武器輸出規制を大幅に緩和してから初の大型案件となるが、日本の防衛産業にとってどのような意味を持つか。

 (武器輸出に対する)自信を飛躍的に高めるだろう。今回の交渉は日本に武器販売は他の商品販売と同じであることを教えた。つまり、客を知り、客の要望に応じ、高品質の商品を提供しなければならない。

 日本のビジネスマンは世界で最も優秀だ。今回の交渉で得た教訓を習得すれば、豪州は最終的にそうりゅう型を選ぶだろう。世界の防衛市場は(日本を)警戒しなければならなくなる。