米大統領選、混迷状態のまま予備選中盤に突入
2016 米大統領選
共和トランプ氏、民主サンダース氏の勢い持続
米大統領予備選の行方は、緒戦のアイオワ州党員集会、ニューハンプシャー州予備選挙を経ても、ますます混迷を深めている。民主党も共和党も、勝敗の行方が確定するまでに、まだ当分混戦状態が続きそうだ。
(ワシントン・久保田秀明)
女性支持揺らぐクリントン氏
南部で巻き返し狙う共和3氏
民主党は、1日のアイオワ州党員集会でヒラリー・クリントン前国務長官が辛勝したものの、中身はクリントン氏49・9%、バーニー・サンダース上院議員49・6%でとほぼ互角。9日のニューハンプシャー州予備選ではサンダース氏がクリントン氏を60%対38%と大差をつけて破った。本命視されてきたクリントン氏の脆弱(ぜいじゃく)さが改めて露(あら)わになり、勝敗の行方はますます分からなくなっている。
クリントン氏が勝てば、米史上初の女性大統領が誕生する。同氏が女性から支持されるのは、ある意味では当然。2008年ニューハンプシャー州予備選ではクリントン氏がオバマ氏を押さえて勝利したが、女性票が46%対34%と同氏に流れたことが最大の要因だった。今回は若者や白人ブルーカラーがクリントン氏にそっぽを向き、女性票も55%がサンダース氏を支持した。これはクリントン陣営の選挙参謀が強く懸念している点である。
クリントン氏の選挙戦略は、女性票を基盤に、黒人、ヒスパニック系などのマイノリティーから大量の票を集めるというものだ。20日のネバダ州民主党党員集会ではヒスパニック系、27日のサウスカロライナ州民主党予備選では黒人の票の動きが勝敗を左右する。すでにクリントン選挙戦略の第1の柱である女性の支持が揺らいでいるいま、頼みのヒスパニック系、黒人のマイノリティー票をどこまで引き付けることができるかは、クリントン氏にとって死活問題となる。
共和党の大統領候補指名争いも、予断を許さない。アイオワ州党員集会では、テッド・クルーズ上院議員が28%近くを獲得して勝利し、2位の24%に止まった不動産王のドナルド・トランプ氏の勢いが衰えるかに見えた。ところが、ニューハンプシャー州予備選挙では、トランプ氏が35%で他を大きく引き離して圧勝。トランプ氏は、米国の現状に不満を抱き、将来に不安をもつ共和党員、無党派層を強く引き付け、同氏への支持は有権者のあらゆる層に及んでいた。とりわけ、不法移民、経済の混乱、テロの脅威に不安を抱く有権者からの支持が強かった。2位以下のジョン・ケーシック・オハイオ州知事(16%)、クルーズ氏(12%)、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事(11%)、マルコ・ルビオ上院議員(10%)はどんぐりの背比べだった。
ブッシュ、クルーズ、ルビオの3氏はそれぞれ、南部こそ自分の地盤だと自負しており、20日のサウスカロライナ州共和党予備選挙、3月1日のスーパーチューズデーで一挙に巻き返しを狙う。スーパーチューズデーには、テキサス、テネシー、ジョージア、アラバマ、アーカンソー、オクラホマ、バージニアなど南部州の多くが一斉に予備選挙を実施し、いくつかの州は党員集会を行う。大統領予備選中盤の最大の山場だ。南部を基盤にする3人にはいずれも急浮上の現実的可能性があるし、ニューハンプシャー州で2位の快挙をなしたケーシック氏も勢いを得ている。少なくとも3月上旬までは共和党候補者の混戦状態は継続するだろう。
これまで予備選は民主、共和両党とも、サンダース氏、トランプ氏などアウトサイダーが、米国民のワシントン政治、エスタブリッシュメントへの不満と反感を吸い上げて、旋風を巻き起こしてきた。
しかし党本部の既成概念からすれば、サンダース氏もトランプ氏も本選挙で勝てる候補とは見られていない。予備選は通常、共和党は保守、民主党はリベラルとしての信念を競う戦いになるが、本選挙は各党の中核基盤をベースに無党派層、浮動票を引き付ける戦いになる。サンダース氏もトランプ氏も無党派層、浮動票を広く抱きかかえることができる候補ではない。
本選挙での勝利を考えた場合、派手な言動や過激な発言で支持者を沸き立たせるアウトサイダーより、政治の経験が豊富なクリントンやブッシュなどの知事経験者を指名候補にしたいというのが党エスタブリッシュメントの本音だ。現在、予備選の流れは、民主党も共和党も党本部の思惑とは逆の方向に向かっている。アイオワ、ニューハンプシャーは、政治の現状に対する有権者の反感の深さを浮き彫りにした。大統領候補指名争いの今後の展開はまだまだ不透明だ。