県に住民訴訟、首里城火災「責任者出てこい!」

 沖縄県の玉城デニー知事を相手取って、首里城火災の管理責任を問う住民訴訟が11月16日、那覇地裁(福渡裕貴裁判長)で始まった。原告団は、出火原因が特定されず誰も責任を取らないまま再建を進めることを批判した上で、県が管理委託した沖縄美(ちゅ)ら島財団に損害賠償請求をしないことは職務怠慢と訴えている。(沖縄支局・豊田 剛)


ずさんな管理を追及、県が財団への賠償請求を怠る

県に住民訴訟、首里城火災「責任者出てこい!」

首里城正殿が焼け落ち、呆然と立ち尽くす消防士の姿が寸劇で再現された=11月13日、沖縄県那覇市の県立博物館・美術館講堂(豊田剛撮影)

 「沖縄県民に衝撃を与え、社会的に大問題となった事件で、原因や責任がうやむやであっていいはずがない。管理責任の所在を明確にして再建に向かう首里城の管理体制が一新されることを求めていきたい」

 原告を代表して那覇市在住の石岡裕さんが那覇地裁で行われた第1回口頭弁論で意見陳述した。石岡さんは、原因不明という言葉が独り歩きしているが、那覇市消防局の調査報告書では、火災原因はほぼ特定されていると指摘。「県と管理者の美ら島財団がきっちりと責任を取るのが先で、再建ありきはおかしい」と訴えた。

 同市消防局が昨年12月に発表した調査報告によると、出火場所は「電気系統設備が最も集中している正殿北東の部屋」と推測。その部屋の分電盤の床下配線と、分電盤側面のコンセントに取り付けられていた延長コードがあり、その両方に、溶融痕があったと報告している。しかし、県が主導する首里城火災に係る再発防止検討委員会(阿波根光委員長=弁護士)は、出火原因は特定できないと結論付けた。

 原告は、首里城火災によって財団が県に収める年間2億3330万円「固定納付金」の約半分しか収められていないことに加え、焼失した収蔵品400点余りの価値を1億円と推算し、県が約2億円を財団に請求しないことは違法だと指摘している。

 これに対し県側は、答弁書で「財団が防災や施設の維持管理に関する一切の責任を負っていたわけではない」などと反論し、請求の棄却を求めた。この中で県は、新たな設備の設置や100万円を超える修繕は財団の責任になっておらず、防火設備は国が設置したものとし、「財団の施設管理に問題がない」と主張、自らの責任を否定した。

原告団らがシンポジウムを開催、県と財団の責任を糾弾

県に住民訴訟、首里城火災「責任者出てこい!」

裁判について解説する徳永信一弁護士=11月13日、沖縄県那覇市の県立博物館・美術館講堂(豊田剛撮影)

 口頭弁論に先立ち、原告団らは11月13日、沖縄県立博物館・美術館の講堂で、首里城火災における県と管理者の責任を問うシンポジウムを開催した。タイトルは「責任者出てこい!」で、県と美ら島財団の責任を糾弾する内容となった。パネリストとして徳永信一弁護士、原告共同代表の金城満都瑚(みつこ)氏、シンガーソングライターの喜納昌吉氏、評論家の篠原章氏らが登壇。約50人が参加した。

 原告代理人の徳永弁護士は、「美ら島財団に責任があるのに県が追及しないのは職務怠慢だ」と追及。金城氏は、「まず美ら島財団と知事がそろって県民の前に頭を下げて謝罪すべきだった。すぐに国に要請に行ったのはみっともなかった」と述べた。篠原氏は、「首里城は国が県に管理を委託し、美ら島財団が管理している。だから、3者とも責任逃れをしようとしている」と指摘した。

 シンポジウムでは首里城火災当時の様子を再現した寸劇も披露された。うるま市から参加した60代の男性は「臨場感があり、危機管理がいかに欠如していたかよく分かった」と話した。


原告意見陳述要旨 再発防止へ管理体制一新を

 戦災により多くの歴史的文化財が失われてしまった沖縄が、やっと集めた、かけがえのない宝物。それらが今回の火災により灰となり、永遠に失われてしまった。また、幸いにして焼失を免れた文化財も、その多くがダメージを受け、損傷した。

 沖縄県は、温かい支援の声に応えるためにも、積極的に火災の原因を究明し、管理責任を明らかにし、再発防止に向けて、管理の体制を一新してから、再建へと向かうべきだった。しかし、原因も責任も置き去りにしたままで、ただ漫然と再建へと突き進んでいるように見える。

 首里城の所有者の国も、管理者の沖縄県も、指定管理者の一般財団法人沖縄美ら島財団も、火災原因の特定や管理責任の所在にはできるだけ触れずに、ひたすら再建にだけ力を注いでいる。再建だけを首里城の話題にすることで、責任問題を掻(か)き消そうとしているかのようにすら感じられる。

 たとえ出火があったとしても、初期消火活動がしっかりしていたなら、7棟が焼け落ちてしてしまうような大惨事は避けられたのではないか。国、県、美ら島財団の中でもとりわけ現場での管理責任を負っていたのは美ら島財団だが、財団関係者の初動は管理マニュアルにも従わずに行動し、消防への通報もせず、駆け付けた消防隊を火災現場へ導くことも怠った。また、財団が維持管理していた自動火災警報装置がきちんと作動していなかった。出火原因も管理責任の所在も明確でない現状では、首里城をまた新たに再建しても、再び同じ過ちを繰り返す恐れを拭えない。