沖縄振興予算、単年度予算が3000億円を割る

 内閣府は2022年度沖縄振興予算の概算要求額を2998億円とする方針を固めた。仲井眞弘多県政時代に当時の安倍晋三政権が現沖縄振興計画の期限となる「21年度まで3000億円台を維持する」と確約した期限が過ぎ、10年ぶりに3000億円を割り込んだ。来年度、期限を迎える沖縄振興特別措置法については、内閣府が延長方針を示す一方で、貧困問題など沖縄の社会問題に切り込むなど、河野太郎沖縄担当相のカラーが色濃く出た。(沖縄支局・豊田 剛)


県の要求を大幅に下回る、玉城知事は政府批判を避ける

沖縄振興予算、単年度予算が3000億円を割る

次年度予算についてコメントする玉城デニー知事=8月27日、沖縄県庁(豊田剛撮影)

 玉城デニー知事は、仲井眞県政時代の14年度に記録した過去最高額3501億円を上回る3600億円の予算措置を政府に要望していたが、要求よりも約602億円も少なくなった。

 安倍首相の後を継いだ菅義偉首相は、米軍基地問題で玉城県政との対立が続く中でも、「何があっても3000億円台は維持する」と語ってきたが、10年ぶりに3000億円台を割り込む結果になった。

 玉城知事は記者会見で、予算が県の要求を大幅に下回ることについて「要求が通らず満足できる形ではない」としながらも、政府への批判は避けた。

新沖縄振興計画の骨子まとまる、沖縄振興特措法は延長へ

沖縄振興予算、単年度予算が3000億円を割る

貧困や教育に切り込む内閣府の新沖縄振興策の基本方針(豊田剛撮影)

 それに先立ち、内閣府は8月下旬、来年度以降の沖縄振興策に関する「基本方向」を発表した。「基本方向」は、来年の通常国会に提出される新たな沖縄振興に関する法整備に向けた骨子と位置付けられる。

 基本方向では、全国最下位の1人当たりの県民所得や、子供の貧困など沖縄が抱える問題を例示しつつ、「今一度、法的措置を講じ、沖縄振興策を推進していく必要がある」と明記され、沖縄振興特別措置法の事実上の延長方針が示された。

 自治体が自由に使途を決められる「沖縄振興一括交付金」は「有効活用などに留意しつつ継続する」との方向性が示され、21年度当初予算と同額の981億円となった。県を通さず政府が市町村に直接交付する「沖縄振興特定事業推進費」は22年度以降も継続し、80億円が充てられる。前年度比で5億円減った。

 離島については「市場規模の狭小性やさまざまな生活コストが割高であることなどの不利性を抱えている」と指摘し、定住促進、産業振興などの取り組みを進める方向を示した。「離島が日本の領海や排他的経済水域の保全に極めて重要な役割を果たしている」と安全保障上の重要性を明記した。

 存続の是非が議論されている沖縄振興開発金融公庫については「行政改革推進法で日本政策金融公庫に統合するとされている」とし、「沖縄における政策金融機能を担う体制を引き続き検討していく」と述べるにとどめ、存否を明確にしなかった。

 22年度以降の沖縄関連税制の改正要望案もまとまった。酒類は軽減率を段階的に引き下げ、泡盛は10年後に、ビールは26年10月のビール類税率の統一に合わせて、それぞれ廃止とすることを求めている。基本方向では、「関係者から見直しの提案が出されている」と廃止を目指す理由を説明した上で、酒造事業者の「創意工夫を支援していく」とした。酒税をめぐっては、6月の自民党沖縄振興調査会の会議で、オリオンビールや県酒造組合が、軽減措置が適応されなくなることへの覚悟を示していた。

貧困など社会問題にメス、河野氏の特色が色濃く出た提言

 沖縄の社会問題に詳しい評論家の篠原章氏は、今回の「基本方向」の特色は、「期間を明確に定めていないところと、沖縄社会の歪(ゆが)みの象徴である貧困問題に大臣自身の言葉で言及したところにある」と分析。「沖縄政策に10代の妊娠・避妊・性教育、そして母親だけではなく、父親の責任を盛りこんだことは前代未聞」で、河野氏の特色が色濃く出たものだと指摘した。

 沖縄振興計画はこれまで「期間10年」を前提に考えられてきたが、「基本方向」で示唆されたように、「エビデンスがなければ打ち切る」という政府の姿勢が垣間見えるという。

 沖縄の社会問題に切り込んだ提言に、元県幹部は、「ウチアタイする(心当たりがある)から、県もマスコミも含め誰も言い返せない」と述べた。予算の減額については「政府から沖縄への明確なメッセージだ」とし、「隙のない予算の裏付けをし、政府とけんか覚悟で激しい交渉をした稲嶺・仲井眞両県政の頃とは比べものにならない」と指摘。沖縄が日本に貢献する気概を示さなければ、沖縄は取り残されてしまうと危機感を募らせた。


= メ  モ =

沖縄振興予算の推移(単位:億円)

 年 度   金  額       年 度   金  額
2013  3,001     2018  3,010
2014  3,501     2019  3,010
2015  3,340     2020  3,010
2016  3,350     2021  3,010
2017  3,150     2022  2,998