資金洗浄 金融業界は危機感強めよ


 マネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金供与の防止策を監視する国際組織「金融活動作業部会」(FATF)が、日本のテロ資金対策をめぐって、法制度の不備や監視監督の甘さを指摘し、改善が必要との見解を示した。

 アフガニスタンからの米軍撤退でテロへの懸念が高まる中、政府や金融機関は対策強化を急ぐべきだ。

 国際組織が改善点指摘

マネーロンダリング

 マネロンは犯罪などで入手した不正な資金を、架空口座や他人名義の口座などを利用して移転することで、正当な手段で得た資金と見せかけることだ。テロ組織のほか、核・ミサイル開発を進める北朝鮮のように国家ぐるみで行っているケースもある。対策に甘さがあれば、わが国の安全を脅かすことにもなりかねない。

 日本は近年、官民挙げてマネロン対策に力を入れてきた。8月中旬には警察庁、財務省などの関係省庁で対策会議を設け、今後3年間の工程表を「行動計画」にまとめた。

 それでもFATFの今回の審査結果によると、日本に対する全体評価は3段階の中間に当たる「重点フォローアップ国」だった。最下位の「観察対象国」ではなかったが、改めるべき点は少なくない。

 対日審査報告書では、大手金融機関以外の金融事業者のマネロンやテロ資金供与に対する理解度が低いとして、金融庁などの監督に改善を求めた。警察庁によると、マネロンなど犯罪への関与が疑われる取引の届け出件数は2020年に約43万件と、10年の約1・5倍に増加している。金融業界全体で危機感を強める必要がある。

 また、金融機関に対しては継続的な顧客管理などに優先して取り組むよう要求した。各行はリスクが高いとみられる口座の保有者に手紙を送付するといった方法で現住所などの確認に努めている。ただ返答率は2~3割程度にとどまるとされ、大きな課題となっている。

 もっとも地銀などの場合、マネロン対策のための人員やシステムへの投資負担能力が限られており、政府などの支援が求められる。全国銀行協会は7月、人工知能(AI)を活用したマネロン対策のシステム共同化の可能性について議論を開始。政府は行動計画に、2024年春の「共同システムの実用化」を盛り込んだ。

 国際的に対策が不十分と見なされれば、海外送金や国際業務に悪影響が及ぶ可能性もある。海外からの信頼を失わないためにも、地銀や信金のほか、資金移動業者や暗号資産交換業者なども対策強化を急がなければならない。

 厳罰化実現し防止せよ

 FATFは日本の法制度の不備も指摘した。これを受け、法務省は組織犯罪処罰法の「資金洗浄罪」や、テロ資金提供処罰法の「テロ資金等提供罪」について、法定刑の引き上げなどを検討する。

 米軍が撤退したアフガンではイスラム主義組織タリバンが実権を掌握し、再びテロの温床となる懸念が高まっている。厳罰化を実現し、マネロン防止につなげるべきだ。