菅義偉首相退任へ、沖縄に向き合い大きな功績
菅義偉首相はこのほど、自民党総裁選への不出馬を表明した。官房長官時代から沖縄の政策を取り仕切ってきた菅氏の退陣は県内の政界や経済界から驚きをもって受け止められている。近く実施される衆院選への影響は小さくない。(沖縄支局・豊田 剛)
保守・経済界が高評価 革新勢力は辺野古工事に不満
菅義偉首相は3日、新型コロナウイルス対策に専念することを理由に自民党総裁選に立候補しない意向を表明した。玉城デニー知事は県庁で記者団を前に「正直、驚いている」と語った。米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設のための埋め立て工事が進められていることについて「非常に残念だが、政府に県民の思いを伝えることはできた」とした上で、「辺野古移設では環境破壊と時間がかかりすぎる問題がある。その間、市民、県民は不安や実被害にさらされてしまう」と指摘した。
社民や共産などの革新政党・団体も同様の評価で、辺野古移設工事が進められている一点をもって菅政権を厳しく評価した。
菅氏は、沖縄に向き合うことのできる数少ない政治家の一人だ。2012年12月から20年9月までの官房長官時代には頻繁に沖縄に足を運んだ。第2次安倍政権では、「沖縄基地負担軽減担当」を兼務した。
元県幹部は、「目に見える形で沖縄の政策と基地負担軽減を前に進めるという姿勢でやってくれた。沖縄に関与するこだわりを持った数少ない政治家の一人」と評価した。
経済界の幹部は、「那覇空港の第2滑走路の工期前倒しは、菅氏のリーダーシップで実現した。また、酒税権限措置や公共事業の高率補助制度により、恩恵を受けた。経済界や市町村は恩義を感じている」と述べた。
菅氏の肝煎りで実現した案件としては、他にも、沖縄市に今年完成した県内最大のアリーナ、7月に開通した名護東道路がある。また、浦添市のキャンプ・キンザー(牧港補給庫)と宜野湾市の普天間基地の部分返還も大きな功績だ。慢性的な渋滞が発生する国道58号の拡幅にめどが付き、普天間基地周辺の交通緩和にも一役買った。
今年6月23日、沖縄全戦没者追悼式のあいさつでは、こうした実績に触れながら、「21世紀の『万国津梁』として世界の懸け橋となるよう、私が先頭に立って、沖縄の振興を進めていく」と決意を語っていた。
沖縄の政局にも影響、自民党復党を画策する下地議員
内閣支持率が下がり続ける中での菅氏の総裁辞任は、沖縄への政局へも影響する。自民党県連幹部は、「菅総裁の辞任は今のところは逆風とも追い風とも言えない」と評価を避けながらも、沖縄1区の動向を気に掛けている。1区の公認候補は国場幸之助衆院議員だが、下地幹郎衆院議員が自民復党を諦めていないからだ。
菅氏は、下地幹郎衆院議員と当選同期だ。前回の衆院選でも応援演説のために沖縄入りしたほどだ。下地氏は統合型リゾート(IR)の参入を目指す中国企業から現金を受け取ったことを政治資金収支報告書に記載しなかったため、2020年1月、日本維新の会から除名処分され、現在は無所属だ。
下地氏が自民党への復党を画策する上で、キーパーソンとなっている二階俊博幹事長も次の役員人事で交代する見通しだ。頼みの綱となる2人が不在となれば、下地氏の復党は遠のく。