玉城沖縄県知事、戦跡公園内の採掘禁止を見送り

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先となる名護市辺野古沿岸部の埋め立てに関し、玉城デニー知事は16日、沖縄本島南部糸満市の沖縄戦跡国定公園内の鉱山で埋め立て土砂調達のために開発を計画している業者に自然公園法に基づく措置命令を出す方針を発表したが、採掘を全面禁止する措置は見送った。採掘反対の運動は、辺野古移設阻止運動と連動しており、玉城県政としては苦しい決断となった。(沖縄支局・豊田 剛)


遺骨混入のおそれで問題化、制限は「法制上の限界」

 採掘業者の熊野鉱山が出した開発届は3月18日、県自然保護課によって受理されており、16日は県知事が自然公園法に基づいて事業中止命令を出せる期限だった。玉城知事は「百点満点を望んでいる人もいるが、法制上の限界もある。鉱業権が設定されている場合の採掘行為は、法制度上は届け出を受理し、認めることが前提だ」と厳しい表情で語った。

 遺骨が混入した土砂の「工事や埋め立てへの使用はあってはならない」と前置きした上で、「採掘は所有権や鉱業権に基づくが、国内で唯一の戦跡国定公園の趣旨、糸満市風景づくり計画における重要性などを考慮した結果、必要な措置を取るべき旨を命じることを判断した」と説明。「遺骨混入の可能性のある土砂が、戦没者遺族をはじめとした県民の心情に配慮し適切に扱われるよう、人道上の配慮を事業者に求めるとともに、取り得る最善の措置を検討していく」とも述べた。

 県は同日、知事の意向を受けて、採掘業者に対し、①沖縄戦戦没者の遺骨等が混入した土砂は採取しないこと②戦没者の遺骨収集に関する法律、糸満市風景づくり条例等関係法令を遵守(じゅんしゅ)し、必要な手続を実施すること③周辺植生と同様の植物群落に原状回復すること――などに留意するよう通知。今後、業者の弁明を聞いた上で、5月14日までに措置命令を出すかどうか正式決定する。

玉城沖縄県知事、戦跡公園内の採掘禁止を見送り

ハンガーストライキをした具志堅隆松氏を支持する反基地活動家ら=3月3日、沖縄県庁前(豊田 剛 撮影)

 戦跡国定公園内の鉱山での採掘をめぐっては、戦没者の遺骨が混入するおそれがあるとして、遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」の具志堅隆松氏らが反対してきた。具志堅氏は3月1日から6日まで県庁前でハンガーストライキを行い、辺野古移設に反対する活動家らがこれに連帯した。

 具志堅氏と支援者らは玉城知事の記者会見が行われた16日には、県庁の会議室に乱入し、「工事が始まる可能性もあるのか」と担当職員に詰め寄る場面もあった。

 玉城県政に批判的な沖縄県議会の赤嶺昇議長(会派おきなわ)も18日、うるま市長選の応援演説で、「玉城県政には指導力がなく一貫性がない」と痛烈に批判した。

辺野古移設反対派は強く反発、「オール沖縄」に亀裂も

 沖縄本島南部での土砂採取が問題になったのは、辺野古移設をめぐり、沖縄防衛局が県に設計変更申請をしたことがきっかけだ。

 当初、辺野古沖で使う埋め立て用の土砂は沖縄県内ではもっぱら本島北部から調達し、7割程度は県外から調達すると見込まれていた。変更申請ではこれを見直し、全量を「県内でも調達可能」とした。追加の調達場所は本島南部が見込まれる。県議会は2015年、県外からの調達を防ぐため、特定外来種の侵入防止という名目で、県外土砂規制条例を成立させた。

 ところが沖縄本島南部は、第32軍司令部があった沖縄戦最後の激戦地で、10万人以上の住民や兵士が亡くなり、今も2790柱の遺骨が見つかっていない。

 そのため県議会は今月15日、人道的な観点から「沖縄戦戦没者の遺骨等を含む土砂を埋め立てに使用しないよう求める意見書」を全会一致で可決した。

 玉城県政に対し野党の自民も賛成に回った。与党案は当初、「新基地(辺野古代替施設)建設断念」の文言を盛り込む予定だったが、これを削除することで譲歩した。ある県議は「遺骨混じりの土は使うなと求めるのは当然のこと。言い換えれば、遺骨のない土で埋め立てれば全く問題ない」と指摘する。県が法律の壁にぶつかることは織り込み済みだったのだ。

 一方、豊見城市議会は南部土砂採取反対意見書を反対多数で否決した。「ルールにのっとった採掘業者までが風評被害に遭っている」、「琉球石灰岩に遺骨が混じる可能性は極めて低い」という反対弁論が多く支持された。

 それでは、そもそも採取土砂に遺骨が含まれる可能性はあるのか。

 「採石現場の地表に近い部分はすでに削り取られ、那覇空港第2滑走路をはじめとする本島南部の数多くの埋め立て工事に使われている。そこから深堀りする土砂に遺骨が混入していることは考えにくい」。ある建設関係者は証言する。

 辺野古移設反対でまとまる「オール沖縄」の支援者は、移設に必要な埋め立て用土砂を搬出するための港使用を玉城知事が認めたことにも強く反発した。辺野古移設をめぐる一連の裁判で敗訴が続き、何ら効果的な対案を出せていないことも、支援者の不満を増幅させる結果となっている。