建設関連業・照屋義実氏が副知事に就任
沖縄県の副知事に、建設大手照正組会長の照屋義実氏が就任した。野党はこの人事案に猛反発したが、議会での投票の結果、わずか1票差で賛成票が反対票を上回り、可決された。米軍基地の受注工事をめぐる虚偽発言が浮き彫りになっており、玉城県政は新たな火種を抱えることになりそうだ。(沖縄支局・豊田 剛)
政治的人選であることや過去の虚偽発言で自民猛反発
照屋氏の副知事就任は、翁長雄志、玉城デニー両知事を支えてきた富川盛武氏が任期満了で8日付で退任したことを受けたもの。総務や商工労働、文化観光スポーツの各部などを担当する予定だ。新型コロナで落ち込んだ県経済の回復が課題だ。
照屋氏は沖縄本島南東部の与那原町出身。照正組社長、県建設業協会会長、県商工会連合会会長などを歴任。2015年8月には翁長雄志県政の県政策参与に就任。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設に反対する「オール沖縄会議」の共同代表も務めた。
県議会の2月定例会は、知事が提案した副知事人事案のため紛糾した。照屋氏の選任をめぐっては、1日の一般質問で野党がその資質を疑問視。玉城知事を含め県当局が答弁に窮する場面が目立った。
自民が人事案に反発した理由は、次の知事選や衆院選をにらんだ政治的人選であることと、過去の虚偽発言だ。
照屋氏は、今年秋までに行われる衆院選の沖縄4区で「オール沖縄」候補として出馬を要請され、固辞した。4区は前回衆院選で自民が唯一勝利した選挙区で、照屋氏が自身の地盤である4区に政治的影響を及ぼすことを、自民は警戒している。
「米軍工事受注なし」発言も5件の実績が明るみに
最大の問題は、照屋氏の虚偽発言だ。照屋氏が照正組社長だった14年、朝日新聞のインタビューに「ここ10年ほどは、米軍や防衛省関連の工事には手を挙げてさえいない」と発言したが、実際は沖縄防衛局が発注した米軍関連工事の入札に参加していたことが明るみに出た。
一般質問で、仲里全孝県議は、「照屋氏は当時、県政策参与として発注側の立場であるにもかかわらず、5件の公共工事を落札している。その中でも数千万円の工事に対して最低制限価格と数千円の差での落札があった」と指摘した。
8日の総務委員会も副知事人事で紛糾した。県総務部は、「入札への参加は会社の担当部門に任せている。応札の事実はあるが、受注を意図したものではなく、電子入札制度に早く慣れるために先行実施している沖縄防衛局の入札に試行的に参加したものだった」という照屋氏への聞き取り内容を明かした。委員会では照屋氏の参考人招致を求める動議が出されたが、反対多数で否決された。
本会議では、同人事案に対して記名投票を行い、賛成24、反対23という僅差で承認された。自民は、知事に対して是々非々で臨んでいる会派おきなわに反対票を投じるよう呼び掛けたが、奏功しなかった。
論功行賞人事の色合い濃く、自民は今後も追及の構え
「オール沖縄の玉城県政の人事は身内優先で論功行賞だ」。本会議で照屋守之県議(自民)はこう指摘した。「本来は国と交渉できて沖縄県のためになる人物なのかが問われなければならない。玉城知事は選挙功労者を副知事に登用するなど選挙のための政治をしている」と痛烈に批判した。
その上で、反対する五つの理由を挙げた。
①朝日新聞での発言が虚偽であったことを照屋義実氏も「応札の事実はある」と認めている。嘘(うそ)をつく人はふさわしくない。
②全国紙の読者に対して虚偽の説明がされていない。
③応札について「受注を意図したものではない」と照屋義実氏は説明しているが、受注する意図があるから応札はするもので、この説明も虚偽の疑いがある。
④会社の代表でありながら応札を把握していなかったと説明している。この一点を見てもリーダーとしての資質に疑問がある。
⑤玉城知事は、本会議では、「富川副知事の仕事を照屋氏が引き継ぐ」と答弁していたが、総務委員会で「一番主要な沖縄振興計画を謝花氏が引き継ぐ」と答弁。何一つ計画性のない人事案である。
一方、賛成の立場で討論した國仲昌二県議(てぃーだネット)は、照屋氏が長年にわたり経済界で活躍し、県教育長や県政策参与などを務めた実績から「豊富な知識や経験から副知事として適任である」と賛同の理由を説明した。
薄氷を踏むような副知事人事案可決に、ある与党議員は、革新の大田県政が崩壊した「きっかけは吉元政矩(まさのり)副知事の再任否決だった」としながら、照屋副知事の誕生に胸をなでおろしている。
自民は今後も照屋副知事の入札疑惑と副知事としての資質について追及していく構えだ。