あらゆる産業を下支えするITの役割が拡大

宜野湾市で「リゾテックおきなわ国際IT見本市」を開く

沖縄ITイノベーション戦略センター理事長 稲垣純一氏に聞く

あらゆる産業を下支えするITの役割が拡大

沖縄ITイノベーション戦略センター理事長の稲垣純一氏(豊田 剛撮影)

 10月29日から11月1日まで、沖縄コンベンションセンター(沖縄県宜野湾市)で国内外のITソリューション提供事業者と観光、宿泊、水産業、医療、福祉などの事業者との協力促進を図る第2回「ResorTech(リゾテック)おきなわ国際IT見本市」(主催:同見本市実行委員会)が開かれた。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、あらゆる産業分野でITが果たす役割はますます大きくなる。実行委員長の稲垣純一・沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)理事長に見本市の意義や沖縄IT産業の課題を聞いた。(聞き手・豊田 剛)


ITイノベーション実現による社会貢献がISCOの役割

 ――ISCOの設立目的、役割はどのようなものか。

 ISCOは沖縄県の官民が一体となって、ITイノベーションの実現により社会に貢献する機関として2018年に設立された県の外郭団体だ。

 その使命は、「情報通信技術の活用による沖縄県の情報通信関連産業をはじめとする産業全体の振興を図るため、成長戦略を提言し、実行する司令塔となることで、産業全体の生産性と国際競争力の向上に寄与すること」にある。DX(デジタル トランスフォーメーション)によって豊かな社会を築いていくことを目指す。

 具体的な仕事として、①IT政策・戦略提言(シンクタンク)領域②戦略的な事業プロデュース領域③スタートアップ・人材育成支援領域――などがある。

 ――沖縄県でITが果たす役割は。

 沖縄の主要産業は観光だ。観光中心に考えると、ITがそれを下支えし、あらゆる分野とリンクする。ITがしっかりしていなければ、他の産業の下支えができないということだ。沖縄は中小企業がほとんどで、できるところからITの活用を促進し、新たな成長分野を「共創」することで、他産業を高度化する。また、大手企業でもIT分野で弱ければ、ベンチャー企業とタイアップしてもらいたい。沖縄が全国的な実証実験の場となればとも思っている。

 現行の第5次沖縄振興計画が来年度、期限を迎える。次期振興計画で新たなIT戦略導入を提言をしているが、来年は仕上げの時期だ。

 ――沖縄のIT業界の課題は。

 多くの優秀な人材が育っているが、それが県外に流れている。一つの要因として、給与問題がある。沖縄の1人当たりの県民所得は全国平均を100とすると、東京は160、沖縄は60で、東京の半分以下である。沖縄で東京の大型案件を受注しようとすると、ひ孫請けのような仕事しかない場合が多い。ひ孫から孫に、そして直接下請けにと段階的に発展させなければならない。これから求められる人材を高いレベルで強化する。ISCOが人材育成の重点にしているのは、ビッグデータサイエンティストとサイバーセキュリティー専門家だ。

県内外と台湾から85社が出展、来場者は2万人を超す

 ――今回の「リゾテックおきなわ国際IT見本市」は今年2月に続いて2回目だが、「国際見本市」を開催する経緯、背景は。

 「リゾテック」は、リゾート(Resort)とテクノロジー(Technology)を掛けた言葉。リゾートには「休暇」「遊びに行く」と想像しがちだが、「Re」は繰り返すという意味があり、「Sort」はフランス語で出掛けることを意味する。すなわち、何度も行きたくなる先。事業でもスポーツ、文化、健康、医療、福祉でも何でもいい。あらゆる分野で目指す目的に対してITが下支えしていくというもの。

 今回の見本市のテーマは「リゾテックが拓く、その先の社会~対応・適応から進化へ~」。このコンセプトを基に、国内外のITソリューション提供事業者と観光、小売、飲食、宿泊、交通、水産業、医療、福祉など、リゾート地を支えるあらゆる事業者とのビジネスマッチングによって各分野の生産性や付加価値向上を促進しようというもので、展示、商談、セミナー、シンポジウムなどを交えた複合型見本市にした。今年度は、コロナ禍ということあって、オフライン(現地)とオンラインでの統合開催に加え、ウィズ・コロナ、ポスト・コロナへのイノベーション促進の「統合型、未来創造イベント」と位置付けて開催した。

 ――今回のリゾテックIT見本市をどう評価しているか。

 1回目は約8000人が訪れた。5カ国13団体と連携協定(MOU)を締結した。また、県内では14の市町村、41団体とMOUを結んだ。

 今回は、旅の祭典「ツーリズムEXPOジャパン」と同時開催だったため、正確な数字は出ていないが、「IT見本市」には、速報では4日間で来場者2万1940人、オンラインで1825人の参加があった。オンラインの参加は今も続いている。県内外から85社が出展した。台湾からの出展もあった。

 シンポジウム、特別企画は、オフライン(現地)とオンラインで開催した。台湾のオードリー・タン・デジタル担当相と玉城デニー知事との対談は、コロナ対策を含め、台湾と沖縄が共に学び合う機会を与えてくれた。星野リゾートの星野佳路代表のキーノートスピーチをオンラインで直接聞き、地元企業代表とのパネルディスカッションでは有意義な意見交換があった。

 沖縄県は3月からすべてのイベントを中止した。秋の大イベント、沖縄の産業まつりもオンライン開催となった。今回は、県主導のイベント復活を告げるものだった。しかも、オンラインとオフラインで開催するという今後の新たなスタンダード、ニューノーマルとなるものを数年前倒しでできたことは意義深い。


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稲 垣 純 一 (いながき・じゅんいち) プロフィール

 1953年、東京生まれ。93年より沖縄在住。県内のIT系専門学校の校長を21年間務める。一般財団法人沖縄ITイノベーション戦略センター理事長。ResorTech Okinawaおきなわ国際IT見本市実行委員会委員長。一般社団法人沖縄県情報産業協会副会長。