沖縄・名護市で引きこもり・就労支援施設を経営
引きこもり・就労支援相談員の東邦治(あずまくにはる)理事長は沖縄本島北部の名護市で障害者のための就労支援施設を営んでいる。コロナ禍で経営が悪化している中、無農薬野菜の生産・販売で活路を見いだしている。(沖縄支局・豊田 剛)
自身の体験から「アトリエみらい」を造った東邦治理事長
東さんが経営する障害者のための就労支援施設「アトリエみらい」には、名護市と近隣の町村から知的障害者ら32人が通っている。のどかな田園風景の中にあり、おしゃれなカフェが併設されている。自らコーヒー豆を焙煎(ばいせん)し、自家製のジェラートを提供している。近隣地域の人々や本州各地からの観光客にとって憩いの空間となっている。
東さんが福祉施設を営むことになったきっかけは、自身の息子が中学校の時に引きこもりになったことだ。勉強についていけなくなり、次第に不登校になった。
当時、写真スタジオを経営していたが、引きこもりの子供たちと接し、傷ついている人たちのために何ができるのか模索した結果、引きこもりや就労支援の相談員になった。
「自分の子供が引きこもりになっていろんな人に相談するまでは、精神障害や分裂症は怖いイメージがあった」と正直に語る。誤解と偏見が取り除かれると、「何らかのハンディを持っていて多少の不便があっても、決して不幸ではない」と実感するようになった。「五体満足で経済的に恵まれていても不幸な人は世の中に多い。どちらの人生が幸せなのか」と考え抜いた結果、これをライフワークにすると決心。財産を投じて障害者の就労支援施設を造った。
コロナ禍でも農業事業に活路、IT活用で広がる可能性
農業に目覚めたのは福祉事業を始めてからだ。地域社会との幅広いつながりができ、子供たちの健康のため、無農薬野菜の栽培を始めた。沖縄本島北部のやんばる地方という土地柄を生かし、トウガラシやネギ、パパイア、ヘチマなどの野菜、さらには、シークワーサーやバナナなど果物も育てている。
ところが、コロナ禍で農業事業も厳しさを増している。観光客向けのそば屋にネギなどの野菜を仕入れていたが、その量が激減してしまった。
最近はフリーマーケットアプリや通販サイトを使って野菜・果物のセットや月桃茶などの販売に力を入れ、苦境を乗り越えた。農業をITとマッチングさせることで、農業の可能性の広がりを感じている。
「コロナ禍で最も影響を受けているのはここにいる人たちなんです」。東理事長は切実に訴えた。コロナウイルス感染の拡大で、観光産業が大きく打撃を受けている沖縄県。中でも、東さんの施設に通う人々は宿泊施設のシーツ交換や清掃などの仕事を失った。同業者の中では、収入がなくなり、閉鎖するところも出てきているという。
政府や県に対しては、「障害者に対してもって理解をし、適正な予算配分をしてほしい」と切実に願っている。
東さんは、将来的に食糧不足となることを危惧し、通所者の中から農業生産者を育成している最中だ。「生き物や植物が育つのを見るのは大きなモチベーションになり、達成感、自己肯定感につながる。農業は次のステージに行くための大きな土台になる」と期待を抱いている。