菅政権は沖縄重視、河野太郎担当相が沖縄訪問
安倍晋三首相の退任に伴い、菅義偉氏が第99代首相に就任し、菅内閣が発足した。沖縄担当大臣には河野太郎前防衛相が就任。早くも19日には沖縄を訪れ、玉城デニー知事と赤嶺昇県議会議長と会談し、沖縄自民党の4支部長とも面会した。菅政権の沖縄重視の姿勢が表れた形だ。(沖縄支局・豊田 剛)
玉城県知事と会談、「経済を中心に支援する」と応じる
菅首相は、外交政策で安倍政権の継承を掲げており、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設などの懸案はこれまでと同様に日米合意に沿って進む見通しだ。沖縄に関わる閣僚を見ても、沖縄基地問題を含め、日米安保、在日米軍再編はこれまで通りであることを印象付けた。加藤勝信官房長官は、沖縄基地負担軽減を担当する。茂木敏充外相は再任。安倍前首相の実弟に当たる岸信夫氏が防衛相に就任した。そして、沖縄担当相は、防衛相からの横滑りとなった河野太郎行革担当相が兼任する。
沖縄に関わる4閣僚の先陣を切って、河野氏が19日、沖縄を訪れ、県庁で玉城デニー知事と会談した。
開口一番、玉城知事はコロナ禍を念頭に「沖縄経済はかつて経験したことのない危機に直面している」と強調した。
これに対し河野氏は「今までは外相、防衛相として接点を持たせてもらったが、今度は経済を中心にサポートしていく」と応じ、「沖縄はアジアに近いという優位性がある。それを生かしながら伸ばしていけると思う」と述べた。
沖縄振興予算や辺野古移設断念を求める要望書を受け取る
玉城氏は、2021年度も例年通り3000億円台の沖縄振興予算を確保することや、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設断念を求める要望書を河野氏に手渡した。
要望事項は19項目にわたったが、玉城知事が最も力を入れて説明したのは沖縄振興だった。沖縄振興特別措置法(沖振法)に基づいて沖縄振興計画をさらに10年間延長するよう要望した。振興計画は沖縄が本土復帰して以来、10年単位で見直され、今は5期目だ。
玉城知事は「沖縄は特措法と振興予算を通じて非常に力をつけた。そのポテンシャルは十分に実証できている」と政府による沖縄振興策の成果を強調。「引き続き日本全体の振興に寄与するために、必要なところを伸ばし、改めるところを反省しながら頑張りたい」として、現在、県が作成中の22年度から10年間の次期沖縄振興計画への予算措置を求めた。一方、「公約の一丁目一番地」としている辺野古移設反対については言及しなかった。
「経済振興は基地問題避けて通れぬ」、予算効果の検証も
会談後、河野氏は記者団に「沖縄の基地問題は経済振興を考える上で避けては通れない」と述べ、辺野古移設反対の姿勢を取る玉城氏を牽制(けんせい)した。17日の就任後の記者会見では「これだけの振興予算を使って結果がどうなのか、きちんと見て分析したい」と発言。沖縄振興予算と基地問題を関連付けて「ひっくるめ論」と名付けた。沖縄振興予算の効果を検証する考えを示している。
玉城知事は18年9月の知事選の公約の一つに、「補助金に頼らない自立型経済」を掲げて当選した。翁長県政が誕生して以来、政府との対立が先鋭化。3千億円台の沖縄振興予算は毎年少しずつ減少している。中でも各自治体が自由に使える一括交付金は右肩下がりだ。今年に入り、今帰仁村と西原町長選で「オール沖縄」が推す候補が敗れたのも、こうした事情と無関係ではない。
菅内閣は県民にどう映っているのか。仲井真弘多元知事は本紙の取材に対し、「沖縄に特別な同情を示した古い政治家がいなくなり、安倍前首相や菅首相ら新しい時代を象徴する政治家が責任を担う時代に変遷している」と指摘。7年近く基地負担軽減を担当した菅氏については、「リーダーシップを発揮し、沖縄振興や予算確保はもちろん、緊張を伴う米軍との関係についても理解してくれた」と述べ、今後は県がどう対応していくかが問題だと指摘した。
元県幹部は、「革新県政が誕生して以来、予算折衝や基地負担軽減で県は政府とまともな交渉ができなくなった」と苦言を呈する。「辺野古移設で政府と対立姿勢を強めれば強めるほど、財政的締め付けは厳しくなる」と述べた。
自民党県議は、「河野氏は首相に近く、行政改革で実績を上げて存在感を示してきた。義理人情が通じない合理主義者だけに、県は辺野古反対の一本槍では立ち行かなくなるだろう」と推測した。
沖縄振興の成否は、辺野古移設をめぐり玉城知事が態度を軟化できるかどうか懸かっていると言える。
= メ モ =
政府に対する県の要望事項
1 沖縄振興特別措置法の延長
2 令和3年度沖縄振興予算の確保
3 令和3年度税制改革
4 飛行機着陸料の軽減
5 沖縄自動車道の独自料金及び割引制度の継続
6 首里城復元に関する沖縄県の取組への理解
7 沖縄鉄軌道の早期導入
8 駐留軍用地の跡地利用推進
9 国立自然史博物館の設立
10 子供の貧困対策の推進
11 国民健康保険事業に対する財政支援
12 公立北部医療センターの整備支援
13 辺野古移設計画の断念と普天間飛行場の
県外・国外移設、早期返還及び一日も早い危険性の除去
14 米軍基地の整理縮小、日米地位協定の抜本的な見直し
15 日台漁業取り決めと日中漁業協定の見直し
16 尖閣諸島をめぐる問題
17 不発弾処理における負担軽減
18 沖縄戦に起因する所有者不明土地問題の抜本的解決
19 新たな過疎対策法における地域指定