菅義偉自民党新総裁は沖縄とどう向き合うか
自民党総裁選で菅義偉官房長官が勝利し、次期首相となる。沖縄振興や在沖米軍の統合再編計画は第2次安倍政権を踏襲することが確実だ。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古沖への移設が推し進められるが、政府と強硬に反対する沖縄県との溝をどれだけ埋めることができるのか、菅氏がどう向き合うか注目される。(沖縄支局・豊田 剛)
基地負担軽減・振興で実績、年間3000億円の予算を確保
自民党沖縄県連は、党員による予備選挙を実施し、持ち分の全3票を菅義偉官房長官に投じた。最も得票数の多かった候補者に3票全てを投じる「総取り」方式を採用したためだ。
菅氏は沖縄との関係が最も深い政治家の一人だ。安倍晋三首相は2014年9月、改造内閣の目玉の一つとして、「沖縄基地負担軽減担当大臣」を新設し、菅官房長官に兼務させた。それから6年半の間、菅氏は担当大臣として頻繁に沖縄を訪問し、基地負担軽減に努めるとともに、年間3000億円台の沖縄関係予算を確保した。
ところが、14年11月の知事選で、辺野古移設に反対する共産ら革新系と一部保守層が支持した翁長雄志知事が当選。いわゆる「オール沖縄」勢力で、辺野古移設をめぐり政府と全面対決する姿勢が鮮明になった。
15年4月に来沖した菅氏が基地負担軽減を「粛々と進めていく」と発言したことに翁長氏が過剰反応。地元メディアが大きく取り上げることで、政府と沖縄県の対立を印象付けた。
基地負担軽減を進める気持ちにはぶれがない。総裁選の討論会で菅氏は「普天間飛行場の危険除去を考えたときに、辺野古建設は進めていくべきだ」と述べた。移設先が名護市辺野古に決まった際は「地元の知事も市長も合意をしてくれた」と付け加えた。
沖縄の基地問題と沖縄振興のリンク論について菅氏は「両方の課題を総合的に推進するという意味で、両者はリンクしている」と説明している。
菅氏の総裁就任について県連幹部の一人は、「菅氏は基地負担(軽減)と沖縄振興で大きな実績を残しており、当然の結果だ」と述べた。現行の沖縄振興計画は21年度で終わる。次期沖縄振興計画を策定する上で、県は新たに誕生する菅政権といかに信頼関係を構築するか、手腕が問われている。
早期の辺野古訪問期待 島袋吉和元名護市長
市長に就任した2012年は民主党政権の末期だったが、その年の12月に安倍政権が誕生し、菅官房長官が就任した。その時以来の付き合いだ。安倍政権は沖縄の基地問題で「できることはすべてやる、結果を残す」と言っていたが、それに尽きる。
民主党は普天間飛行場の移設先について「最低でも県外」という空想にも似た公約をしたが、(その結果、)最低ラインとして代替施設がないと返還できないことははっきりした。
自公政権になり、菅氏が沖縄基地担当も兼ねることになり、西普天間住宅地区の全面返還、県道11号の整備に伴う普天間基地の部分返還、防衛省の高補助率制度の適応など、政府の方針として宜野湾市にしっかり対応する姿勢が表れていた。特に普天間基地の4㌶の返還は対米交渉を重ねてくれた結果だ。
首相になれば沖縄にはこれまでの頻度では関われないかもしれないが、沖縄に対してこれまでやってきたことへの思いや解決への思いは変わらないだろう。沖縄関係の閣僚には、沖縄とより深く関わりを持つよう指導してくれると期待している。
誠意ある対応を重ねた 佐喜真淳前宜野湾市長
普天間飛行場の辺野古移設について菅氏は安倍政権の「辺野古が唯一の解決策」を踏襲している。安倍政権と同様の期待はあるし、しっかりやってくれると確信している。菅氏は末松文進県議が市長選に出馬した時、直接電話をかけてくるなど、名護市に強い関心を示してくれた。
第2次安倍政権が誕生するまでは1年ごとに首相が交代し、外交や基地問題で継続性がなかった。その反面、安倍政権では経済や外交をしっかりやってきており、米国のトランプ大統領と上手に付き合うことができた稀な世界のリーダーだった。菅氏にも同様な外交力を期待したい。
菅氏は基地と経済のリンク論をはっきり認めた。私は市長の時からずっと言っていることだ。昭和55年以降、新設された高専は沖縄高専しかない。まさに基地とのリンクだった。名護市がITや金融特区となるなど、さまざまな施策が講じられたのは、代替施設の受け入れなしにはあり得なかった。
梶山静六、野中広務、小渕恵三、山中貞則といった沖縄に強く関与した政治家がいなくなって久しい。安倍首相が辺野古入りすることはなかったが、菅氏にはできるだけ早く辺野古を訪れてほしい。