沖縄県民の健康・安全か、観光関連産業の振興か
新型コロナウイルス感染者数が人口比で全国一の沖縄
本来ならば年間を通じて最も観光客が多い夏休み。沖縄県は新型コロナウイルス感染拡大を受け、8月1日、2週間の緊急事態宣言を独自に出したが、その間も感染が拡大し、2週間延期した。県民の健康・安全と観光関連産業の振興を天秤(てんびん)にかけながら、玉城デニー知事は苦しい立場に立たされている。(沖縄支局・豊田 剛)
苦渋の決断を求められる玉城県知事、緊急事態宣言を延期
沖縄県のコロナウイルス感染者数は7月下旬から徐々に増え、8月15日現在までの新規感染者は高水準で推移している。15日までの感染者数は1618人(在沖米軍を除く)。そのうち第2波と見なされる7月以降だけで1476人に達した。感染経路の不明は、調査中も含めて約半数に及ぶ。
直近1週間(9~15日)の人口10万人当たりの感染者数を見ると、40・5人で、16日連続で全国最多となった。2番目に多い島根県(13・9人)、3番目の東京都(13・72人)の約3倍だ。
こうした中、玉城知事は15日、緊急事態宣言をさらに2週間、29日まで延期することを決めた。不要不急の外出自粛の徹底に加え、夜10時以降の外出を控えることや買い物は原則1人で行くことなど、県民に対し行動制限を強めた。一方で、県外からの渡航の自粛は求めなかった。
ウイルス感染はどのように拡大したのか。県の疫学調査チームがまとめた県内の感染経路のデータによると、7月までは接客を伴う風俗・スナックなど「夜の街」の割合が約半数を占め、県外から持ち込まれた割合は6・7%だった。今月に入ると、夜の関連が26・8%、県外からは1・7%と大幅に減少した。一方で、家族間感染の割合は20・4%、飲み会・会食は15・6%に上昇している。
政府主導の観光を喚起する目的で7月22日から始まった「Go To トラベル」キャンペーンによって夜の街に感染が移入した例があったと考えられるが、感染者急増の直接的な原因となったかについては明らかになっていない。
クラスターが発生、病床利用率も最多、逼迫する救急医療
16日現在、県内14カ所の病院、福祉施設、教育施設などでクラスター(感染者集団)が発生しており、今後、感染がさらに拡大することが懸念されている。
数例を挙げると、うるま市内のデイサービスでは20代~90代の利用者と職員計25人が感染。浦添市では市内の保育園で働く保育士ら職員9人が感染した。
宜野座村の病院では12人の感染が確認された。那覇市では四つある救急病院のうち2カ所で感染(そのうち一つはクラスター)が確認され、救急診療が停止した。
15日現在の重症患者は21人で、重症予備軍の「中等症」該当は85人。県が確保している病床使用率は9割を超えた。厚生労働省は14日、新型コロナウイルス感染症について示した指標の一つの病床使用率で、沖縄県が初めて最も深刻な「ステージ4」(50%)の基準に達したと発表した。
濃厚接触者の確認や追跡に当たる保健師と、施設の感染防止や患者のケアに当たる看護師の不足が深刻化している。
県外からの渡航自粛を求めず、「国の責任で来県前検査を」
玉城知事は14日の記者会見で、新型コロナ患者を受け入れる病院に負担を掛けないよう、無症状者には自宅療養か、かかりつけ医を利用するよう要望。「中等症の方が重症にならないよう、医療現場でしっかりとした体制をつくりたい」と理解を求めた。
近い将来、県内107カ所のクリニックでPCR検査を受けられるよう準備を進めている。県外からの移入を防ぐ水際対策に関しては、来県前に県外の空港で検査ができるよう「国が法的にも財政的にも整備を進めるべきだ」と強調した。
16日には玉城知事は橋本厚労副大臣と県庁で会談。橋本氏は、全国知事会などと協力して、最低でも50人程度の保健師や看護師を沖縄へ派遣する方向で調整を進めていることを明らかにした。
沖縄県議会では、野党・自民党会派は「玉城知事は沖縄に来ないでと言うべきだった」と批判。県政与党会派から「そもそもGo Toトラベルは政府(自民党)の政策」と反論し、知事を擁護する。
元県幹部は、「明確な態度を示せない理由に観光団体からの圧力があることは明らか」と指摘した上で、「県民の健康・安全と観光産業の両立を図ろうということだが、観光産業は瀕死状態。二兎を追って一兎も得られない最悪のシナリオを覚悟する必要がある」と述べた。












