久米島ブランド子牛の血統不一致、15件明るみに
2月14日までに事態把握、玉城県知事への報告は1ヵ月後
沖縄県はこのほど、全国各地で取引される同県久米島町のブランド子牛について、希少価値が高い種雄牛「安福久(やすふくひさ)」の血統牛とうたいながら、実際には異なる血統の子牛が出荷されていたと発表した。県は2月14日までに事態を把握していたが、玉城デニー知事が報告を受けたのは今月12日であることが判明。県庁内での意思疎通不足が露呈された。(沖縄支局・豊田 剛)
農林水産部が授精師に聴き取り調査、全頭の追跡調査を検討
1月にも豚熱感染で対応が遅れる、県の危機管理不足が露呈
沖縄県は、子牛の出荷頭数が全国4位だ。沖縄本島の南部と北部、石垣島、宮古島、久米島が主な生産地。ブランド価値が高く、比較的高値で取引される。
玉城知事は13日の定例記者会見で、「肉用牛の子牛産地としての信頼を損ねる極めて重大な事案として認識している」と述べた。県はJA久米島支店に検査終了までの出荷自粛を申し入れた。
県農林水産部は2月23日、問題となった子牛を種付けした家畜人工授精師から聴き取り調査を行った。この授精師が資格を取得してから11年間で交配した全頭の追跡調査も検討しているというが、ほかの授精師が手掛けた人工交配でも4件の不一致が見つかり、3月14日現在、計15件に上っている。
JAおきなわは昨年6月、沖縄市でこの授精師が手掛けた子牛のDNA不一致が発覚して以来、相次いで不一致が判明したことについて、故意ではなく「作業ミス」と判断。バイヤー(購買者)や消費者に公表せず、競りを続けてきた。
JAおきなわの普天間朝重(ともしげ)理事長は13日、緊急記者会見を開き、「率直にお詫び申し上げる。誠に申し訳ない」と謝罪。昨年6月の事案では作業ミスの事故として判断し、購買者に補償などを行ったことを明らかにした。
その上で、同理事長は、同授精師の手掛けた子牛と母牛のDNA鑑定が4月頃に判明する、とした上で「(それまでは)同授精師が人工授精した子牛の市場上場を禁止し、購買者の不信感を招かないよう対応する」とし、指導の徹底とすべての県産黒毛和牛へのDNA鑑定を県に要請する考えを示した。
県の担当者は「故意か単純な人的ミスか判断し、関係法令に基づいて対応していく」と説明。故意の場合は、刑事告訴する可能性を示唆した。
玉城知事は同日、今回の事案発生を受け、①徹底した事実確認をすること②「家畜改良増殖法」違反の事案がないか、県内すべての家畜人工授精師を調査すること③再発防止策を講じること――を農林水産部に指示。
またこれに先駆けて12日には、県の部局長クラスを集めて緊急の全庁会議を開催し、「危機管理体制の認識の徹底について改めて指示」し、「報告・連絡・相談」を徹底するよう求めた。一方、県の担当者は、「状況把握を積み重ねていた」と弁明した。子牛市場における信頼を損ねた結果、今後、県産子牛価格が低下することは避けられない。
養豚農家も試練の時を迎えている。今年に1月に確認された豚熱(豚コレラ)は今月に入って7件目の感染例が確認され、これまで1万2千頭超の豚が殺処分された。
農水省や畜産農家などから度重なるワクチン接種の要請を受けながら、ワクチン接種が始まったのは発覚から2カ月後だ。「知事の判断が遅れたため、感染を食い止め切れていない」(畜産農家)との批判がある。また、昨年11月にうるま市の養豚場で豚熱の症状が出ていたが、県が把握したのは今年に入ってからだ。
元県庁職員は、「県庁全体での危機管理意識が明らかに低下している。知事が軽く見られているので組織が弛緩しているのは否めない」と指摘した。