新型コロナウイルスの感染者3人止まりの沖縄
琉球大学名誉教授 平良一彦氏に聞く
沖縄県内で新型コロナウイルスの感染が確認された3人と長時間接触した「濃厚接触者」について県は4日、継続観察した43人すべての観察を終えたと発表した。横浜港発着のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客が多く下船した沖縄で感染者が少なかったのはなぜか。長年、沖縄本島北部の大宜味村の健康長寿について研究している平良一彦琉球大学名誉教授に聞いた。(沖縄支局・豊田 剛)
温暖な気候が幸いか 植物性化学物質の摂取も
食事前に胸腺を叩こう 免疫力の強化に効果的
――新型コロナウイルスの感染が拡大しているが。
パンデミックの様相を帯び、連日のマスコミ報道で国民の不安は高まっている。行政、教育、観光産業、民間企業など現場の混乱状態は極限に達した。こういう時こそ、冷静になり、可能な予防法を実践することが肝要だ。
ウイルスが体に入らないよう防ぐのは当然だが、万が一ウイルスが体内に入り込んでもそれに負けない方法を考えないといけない。
――具体的にはどのような提案があるか。
未病(病気になることを未然に防ぐ医学)の専門医の友人らは2年前から、感染症予防には、「マスク、手洗い、胸腺ノック」が効果的だと主張している。日本未病システム学会の学術総会で、「胸腺ノック」は免疫力アップに効果があることは証明済みだ。方法は、両肩をそらし、胸腺をトントンと叩(たた)くのを10回、3度の食事の前に行う。特に、高齢者は胸腺が小さくなり、免疫力の低下が著しいので、これはかなりの効果が期待できる。
ウイルス感染による死者のほとんどは免疫力が下がっている高齢者だ。食生活、運動、睡眠など日常生活でウイルスに対抗する免疫力を最高度に高める工夫ができる。
――クルーズ船が寄港した沖縄県内での新型コロナウイルスの感染は2月20日の3人を最後に、増えていない。それにはどんな要因があると思うか。
まだ、医学的根拠が十分ではないものの、沖縄の暖かい気候が幸いしていると思う。紫外線や暖かさでウイルスが死んでいるのではないか。沖縄出身のウイルス研究第一人者で、SARS(重症急性呼吸器症候群)撲滅に尽力した生物資源研究所代表の根路銘(ねろめ)国昭先生も、「コロナウイルスは気温が上がると生きていけない」と指摘している。この観点から、沖縄は日本一安全だと言える。
――小中高を休校にした政府の対応への評価は。
若い世代の感染率は低いが、家庭内感染は起こりやすいから、学校を閉鎖することは理解できる。
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」は、感染者がいる状態で乗員・乗客全員を船内に閉じ込めたのは、ウイルスが培養させる環境をつくってしまい、結果的には良くなかった。むしろ、甲板に出て外気に触れさせた方がよかったと思う。多くの友人の学者もそう言っている。
――長年、長寿研究をしてきているが、長寿と免疫力にはどのような関係があるか。
医食同源という言葉がある。沖縄の言葉で「ぬちぐすい」。愛情やおいしい食事が薬だという意味だが、特に野菜こそ薬なのだと主張したい。国が奨励する1日当たりの野菜摂取量は350㌘以上だが、かつて長寿県だった沖縄県民の摂取量はわずか270㌘で、全国平均の293㌘より少ないのが現状だ。ただ、長寿の村として知られる大宜味村の野菜摂取量は400㌘もある。
抗がん剤の世界的権威である熊本大学の前田浩名誉教授は、ウイルスなどの病原体が体内に侵入してくると、免疫をつかさどる白血球がウイルスを殺傷するために活性酸素をどんどん作り、これがウイルスを攻撃して病原体を死滅させる。余分にできた活性酸素は、抗酸化パワーがある酵素などで除去されるが、現代人は活性酸素を除去しきれずに炎症性疾患などを患っている。
ブロッコリー、カラシナ、小松菜をはじめとする野菜や果物に含まれていて、活性酸素を除去する働きを持つ、フラボノイドやカロテノイドなど、ファイトケミカル(植物性化学物質)を多く摂取することが大切だ。
=メモ= 平良 一彦(たいら・かずひこ)
1945年、那覇市出身。未病専門指導士。78年、長崎大学大学院薬学研究科修了後、同大医学博士。長崎大学の勤務などを経て94年、琉球大学教授に就任。沖縄大学地域研究所客員研究所特別研究員、名桜大学客員研究員も歴任した。やんばるヘルスプロジェクト代表。琉球長寿開発研究機構準備室長。主な著書に「なぜか病気知らずの人のすごい腸運」(コスモトゥーワン)。







