新型肺炎 習政権の隠蔽
評論家 石平氏
中国発祥の新型肺炎は世界の株式市場にまで感染し、世界経済を冷え込ませる最大要因になってきた。だが、最近の中国の新規感染者数の激減ぶりが顕著だ。果たして本当の数字なのか、また今回の新型肺炎騒動が政治変革を促す契機になるのか、評論家の石平氏に聞いた。(聞き手=池永達夫)
感染者数信用できず
権力闘争再燃も
当初、新型肺炎をもたらした新型コロナウイルスの発生源は、武漢市の華南海鮮卸市場とされた。
その海鮮市場に近い武漢ウイルス研究所が発生源で、ほぼ間違いがない。
理由は幾つかある。
一つは、2月16日に中国メディアに出たニュースで、中国の科学技術部(文部科学省に相当)が全ての研究室や実験室に対しウイルスの管理強化の要請する通達を出したことだ。要するに今まで、ウイルスの管理が杜撰(ずさん)だったから、問題が起きたということを認めたに等しい。
さらに新型肺炎の1番目の感染者は、武漢ウイルス研究所の女性研究員である黄燕珍氏だといううわさがネット上で起きたが、その真偽を確かめようとした北京にある政府系メディアの新京報のインタビューに同研究所所長は「そんな人がいることは一切知らない」と答えている。本来、うわさを打ち消すなら「黄氏は存在しない」とだけいえば済む話だ。同研究所は100人程度のスタッフがいるが、黄研究員は写真付きで紹介されている。「武漢以外にいる」というなら、生きている黄氏をメディアに登場させれば、うわさはフェイクニュースとなるのだがそれもない。
今回の新型肺炎が、中国の大きな政治変革の波をもたらす可能性は。
無論、ある。
7年間固めてきた習近平個人独裁政権は一見、強固に見えたものの、その隠蔽(いんぺい)体質が決定的な情報の遅れをもたらしたことから揺らいだ。
さらに新型肺炎の「対策指導小組」でも、李克強首相に組長を押し付け敵前逃亡を図った習主席の権威は地に落ちた。
これは挽回できないほど決定的で、習氏は権力はあるけど権威がなくなった。
これからも追及され続け、習近平個人独裁体制は破綻していく。
習近平主席は江沢民派だけでなく、胡錦濤前国家主席など共産主義青年団をも敵に回し、側近だけで独裁体制を作り上げたが、これから揺り戻しが始まり、反対勢力が習近平体制に挑戦する形の政争が深まる可能性が高い。
ただ共産党政権というのは、生き残るためには嘘(うそ)もつくし力の行使もいとわない。
そうだ。昨今、中国が言い始めた新規感染者数の少なさもそうした視点が必要だ。
中国の国家衛生健康委員会のホームページには、2月20日に出した感染予測が掲載されている。いろんな省で、いつ収束するかが掲載されている。
そこでは、湖南省が2月29日に収束するとある。さらに安微省や広西省、浙江省も、みな同じ日だ。
それぞれの省は環境も違うし人口も違う。それが2月最後の日の29日が、収束予測日に設定されている。
実際はどうなっているかというと、報告ではこの通りになる。ウイルスはその命令に従って動いたらしい。それでゼロになった。しかし、ゼロという数字は、習氏の頭の中以外には存在しない。
日本を“犠牲の羊”に
習政権が急いでいるのは、工場生産の再開だけでなく、あらゆる産業や商業を正常軌道に戻すことだ。
そのためには、2月末までに新型肺炎を抑え込まなければ、3月からの全面的経済回復は無理だ。
これができなければ、中国経済は危うくなる。経済が低迷すれば政権の求心力は損なわれる。
確信犯の習氏とすれば、嘘(うそ)がばれて国民が多数死滅することになろうとも、政権維持が最優先課題だ。
中国外務省は10日、滞在日数15日以内の日本人に対するビザ免除措置の一部を停止した。
中国は産業・商業の生産・営業再開のため、全国各地から労働者の大規模な都市への還流を許している。大半は隔離措置さえ取っていないし、取れるわけもない。数千万人規模の人々を都市に還流させ、自由な行動をさせながら、日本からのわずかな訪問者をブロックする意味を考える必要がある。
中国と日本の人的交流をほぼ止めることになるこの措置は、何も感染拡大を防ぐためではない。別の隠された理由を疑うべきだ。
その一つが、日本を犠牲の羊にすることだ。中国はクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の一件で、世界的トピックスになったことに便乗して、意図的に日本を「感染大国」に仕立て上げ、本来世界一の感染国である中国から国際社会の目をそらすことができるし、逆に中国政府がうまくやっているとの印象を国民に植え付け政権の求心力を強化できる。