新型肺炎、クルーズ船が停泊した沖縄でも感染者
情報の公開に消極的な県、県民の不安払拭には至らない
中国・武漢発の新型コロナウイルスによる肺炎の国内感染が拡大する中、沖縄県でも14日、最初の感染者が確定した。県内の観光業を中心とした経済界や医療界はそれぞれの立場から危機感を募らせている。(沖縄支局・豊田 剛)
最初の感染者が確定、危機感を募らす経済界や医療界
中国人観光客が大幅減、医師会はイベント自粛呼び掛け
横浜港で検疫中の新型コロナウイルスの集団感染が確認されたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」が那覇港に寄港したのは2月1日。約9時間半停泊し、その間、約2600人の乗客の多くが下船し、観光バスやタクシーで観光やショッピングに出掛けたとみられる。沖縄本島南部のタクシー運転手をしていた60代の女性が4人の客を乗せ、そのうちの一人からコロナウイルスに感染したとされる。
「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客の感染者が拡大していることから、同号が寄港した沖縄でも感染者が出るのは「時間の問題」(県庁幹部)とみられていた。
14日の午前に行われた知事の定例記者会見では、感染疑いのある女性について質問が集中した。その前日、女性が呼吸器系症状により医療機関で受診し、保健所に連絡をしたことが明らかになったからだ。
同日午後4時までに、その女性について遺伝子検査で感染が確定したことを受け、玉城知事は県庁で危機管理対策本部会議を開いた。会議後、県の砂川靖保保健医療部長が会見に臨んだが、この女性がいつどのような行動をしたのか、濃厚接触者はいたのか、2日以降の詳しい勤務状況について一切の言及を避けた。市町村からも問い合わせが相次いでいるというが、詳細は伝えていないと答えた。
県は乗客と接した可能性のあるバスやタクシーなどの関係者約200人の健康観察調査を実施した。ただ、コロナウイルス感染の症状の疑いがなかったことから経過観察にとどめた。県は、この女性と接触した人の健康確認を進めているという。
玉城知事は会見で①流水や石けんを使った手洗いの徹底②手を洗えない場合のアルコールなどでの消毒③人混みを避ける④せきやくしゃみなどの症状がある場合はマスク着用⑤定期的な換気――を呼び掛けた。ところが、感染者に関する情報不足やドラッグストアで軒並みマスクが売り切れていることから、県民の不安を払拭(ふっしょく)するには至っていない。
観光業界は異なった不安を抱えている。昨年1年間に観光などで沖縄を訪れた人は1016万人で、7年連続で過去最高を更新している。このうち台湾が94万人と最も多く、中国本土の75万人が続いている。中国団体客が来なくなった影響で、那覇市の国際通りなどの主要観光地は閑散とし、ホテルもキャンセルが相次いでいる。
ここ数年は特に、クルーズ船による入域者が増えているため、影響が出ている。那覇港は昨年1年間にクルーズ船の寄港した回数が260回で全国で最も多かった。このうち251回は外国船籍で、中国の上海や香港、台湾などを経由するものが多い。
コロナウイルスの影響で、中国からのクルーズ船を中心に那覇12隻、中城(うるま市)3隻、平良(宮古島市)16隻、石垣5隻の計36隻が入港をキャンセル。合計の乗客は6万7千人となる予定だった。
航空便では、沖縄と中国を結ぶ路線は2月になって運休・減便が生じている。玉城知事は、「那覇と中国の北京、南京、広州、重慶、天津を結ぶ週15便が運休。唯一運行している上海便も2月だけで50便が欠航している」と説明した。重慶便は昨年12月に就航したばかりだった。また、昨年夏以降、韓国路線が減便し、沖縄発着の国際定期便は1年前の7割程度に縮小している。
沖縄でもコロナウイルスの感染が確認されたことで、台湾の観光客など他の海外地域の路線にも影響が出ないか関係者の間で懸念が広がっている。
沖縄では2009年6月、新型インフルエンザが流行した際、患者が総合病院に殺到し、救急医療がパンク寸前となった。こうした教訓から、沖縄県医師会は15日、南風原町の沖縄県医師会館で緊急の関係者会議を開いた。
会の方針として、感染拡大が落ち着くまでは県内での大規模イベントを控えるよう呼び掛けることを確認した。那覇西クリニックの玉城研太朗診療部長は、「ウイルス感染拡大を防ぐためには、状況が終息するまでのイベント開催の自粛が必要だ」と指摘した上で、県や観光・経済機関などと足並みをそろえて意思疎通を図るべきだと訴えた。会議では、「県経済にダメージがある」と、イベント開催中止・延期に否定的な意見もあったが、県民の生命と安全を守ることがより大切だということで、意見が一致した。