同性婚の次は一夫多妻の合法化?
米連邦地裁がユタ州法に違憲判決
米連邦地方裁判所は先月13日、一夫多妻を禁止したユタ州の法律は合衆国憲法違反であるとの判決を下した。米国では同性婚を認める州が17州に拡大し、結婚は一人の男性と一人の女性のものだという伝統的な定義が揺らいでいる。保守派は、同性婚の合法化によって結婚の定義が崩れれば、いずれ一夫多妻や一妻多夫、近親婚などあらゆる形態を認めざるを得なくなると警鐘を鳴らしてきたが、その懸念は今、現実のものとなり始めている。
(ワシントン・早川俊行)
崩れる結婚の定義 保守派の懸念現実に
「自分が予言したことが現実のものとなるのは、時に嫌なものだ」
社会保守派の代表格である共和党のリック・サントラム元上院議員は、地裁判決についてツイッターでこうコメントした。サントラム氏は10年前から同性婚は一夫多妻の合法化につながると警告しており、それが現実化しつつある状況を嘆いてみせた。
同性婚に反対する保守派団体「結婚のための全米組織」のブライアン・ブラウン会長も、「結婚が愛情関係で決まるものになってしまったら、どのような関係であろうと、全ての人に“結婚”を拡大せざるを得なくなる」と指摘し、同性婚が一夫多妻にも道を開くのは必然的な流れであるとの見方を示した。
現在、同性婚を合法化しているのは17州と首都ワシントン。昨年だけで9州が新たに合法化州に加わるなど、増加の一途をたどっている。連邦最高裁も昨年6月、結婚を「一人の男性と一人の女性の法的結合」と定義した連邦法「結婚防衛法」の規定に違憲判決を下した。
同性婚の次は一夫多妻の問題が浮上すると見ていた保守派だが、その懸念が予想以上に早く現実のものとなったことに衝撃を受けている状況だ。
ユタ州の法律をめぐって裁判を起こしたのは、一夫多妻生活を営むコーディ・ブラウン氏(44)。4人の女性との間に17人の子供がいる。
ブラウン氏らは、かつて一夫多妻制を認めていたモルモン教会の分派「アポストリック・ユナイテッド・ブレザレン」の信者。法的に結婚しているのは最初の妻だけで、他の3人を「精神的妻」と呼んでいる。同じような一夫多妻家庭で暮らす人は、ユタ州に約4万人いるといわれている。
ブラウン一家が全米の注目を集めるのようになったのは2010年。ケーブルテレビ局TLCの番組に出演したのがきっかけだ。一家の生活を追ったドキュメンタリー番組「姉妹妻(シスター・ワイヴス)」は視聴率が好調で、現在、シリーズの第4弾が放送されている。
番組が放送されてから、ユタ州の地元警察が捜査に乗り出す。ブラウン氏が法的に婚姻関係を持つのは一人の女性だけなので、重婚には当たらないが、ユタ州の法律はブラウン一家のような同棲の形での一夫多妻も禁じているためだ。一家は捜査を逃れるためにネバダ州に移住し、裁判を起こした。
連邦地裁が先月、違憲判決を下したのは同棲(どうせい)を禁じた条項で、重婚の合法化にまでは踏み込んでいない。すなわち、複数の人と婚姻関係を持つことは従来通り禁じられるが、同棲の形で一夫多妻生活を営むのは個人の自由であるとの判断を下したわけだ。
ブラウン一家の弁護人を務めるジョナサン・ターリー・ジョージ・ワシントン大法科大学院教授は、ワシントン・ポスト紙に掲載された論文で、「法律でモラルを規定する時代は不名誉な終わりに近づいている」と指摘。どのような家族の形態を選ぶかは「同意した大人たちの権利」であり、法律で一つの価値観を押し付ける時代ではないと強調した。
ブラウン一家が裁判で主張したのは、同棲の形での一夫多妻の非犯罪化であり、重婚の合法化までは求めていない。これについて、保守派団体「家庭調査協議会」のケン・クルカウスキー氏は「ターリー教授の二段階戦略」だと指摘する。第一段階で非犯罪化を実現し、第二段階で重婚の合法化、つまり一夫多妻の正式な認定を目指すもくろみだという。
ユタ州の裁判は重婚の是非を直接問うものではないため、同性婚論争とは無関係との指摘もある。それでも、ターリー氏が言うように、法律で一つの価値観を押し付ける時代ではないとの認識の広がりが、同性婚の急速な拡大や今回の判決の背景にあることは間違いない。また、重婚の合法化を求める動きが本格化すれば、同性婚合法化と同じ法理論が用いられることは確実だ。
結婚の在り方をめぐる混乱の底流にあるのは、結局、建国以来のキリスト教を土台とする道徳観の衰退であるとの指摘は少なくない。アメリカン・コンサーバティブ誌のロッド・ドレアー上級エディターは「キリスト教的道徳観がもはや性行為に関する法律の基準ではないとするなら、我々は一体何を基準に一夫多妻の合法化を阻むことができようか」と、悲観的な見通しを示している。






