子供の居場所づくり、地域の交流拠点として注目

岩手県盛岡市の「インクルこども食堂」

 孤食解消やひとり親世帯支援などを目的に、全国に広がっている「子ども食堂」。食材は寄付、調理は地域のボランティアが手掛けることが多く、無料または数百円で食事を提供している。岩手県盛岡市でひとり親支援を手掛ける特定非営利活動法人「インクルいわて」(山屋理恵理事長)が企画・実施する「インクルこども食堂」が、子供の居場所づくり、地域の交流拠点として注目されている。(市原幸彦)

高齢者や学生が支援し、多世代が交流

地域の課題に対する「学びの場」にも

 「貧困削減」は国連の持続可能な開発目標(SDGs)の最も重要な目標の一つだが、特に日本は、大人が1人の世帯では相対的貧困率が50・8%に達し(平成26年度版「子ども・若者白書」)、先進国の中では突出して相対的な貧困状態にある子供が多い。

子供の居場所づくり、地域の交流拠点として注目

地域のさまざまな人々が支援する「インクルこども食堂」=「インクルいわて包括的事業報告書」(平成29年)から

 こうした中、社会運動のトレンドになっているのが「子ども食堂」だ。全国で3700カ所を超え、昨年比1・6倍と増加している。「インクルこども食堂」は平成28年にオープン。場所は、盛岡駅近くの商店街の一角。集まるのは幼児から専門学校生までさまざま。通常は30人ほど。天気のいい日は、40~50人にもなる。低学年は保護者が付き添うことが多い。

 不特定多数の人が出入りしやすいようにと、商店街の「よ市」(毎週土曜日夕方)に合わせて行っている。昨年までは、一般社団法人の「子供みらい基金」からの助成があったので週に1回行っていたが、今年は月に2回程度になった。

 食材は青果市場、生協などのフードバンク、ボランティアの家庭菜園などからの寄付で賄っている。お寺からお供え物を頂くこともある。スタッフとボランティア(計10人ほど)が栄養のバランスを考えて調理する。開催日の午後6時ごろからテーブルに着き、スタッフとボランティアも参加者に交じって食べる。

子供の居場所づくり、地域の交流拠点として注目

家では食べない野菜や、煮物があり、食卓はにぎやか=「インクルいわて包括的事業報告書」(平成29年)から

 「親子2人だけだと、けんかになったりイライラしたりするが、いろんな人と関わるようになって、子供が明るく元気になった、という保護者の声が一番多い」と統括役の川守田栄美子さん。

 一方、来る家庭がなんらかの福祉の支援を受けていたり、課題を抱えていたり、つらい体験をしていることも見えてくる。「さまざまな課題を地域と共有し、支え合い、生きにくさを取り除ける場所、誰でも来て悩みを話せる、温かい場所にしたい」とスタッフたちは口にする。そのために弁護士など専門機関のスタッフもいる。

 支援に来る人もさまざまだ。地域の高齢者、高校生、仕事で来ている単身赴任の人も。65歳以上の高齢者の登録者数は10人以上。多世代交流という点でもいい。社会のために役に立っている、と感じてもらい、支援する人の居場所になっている。

 屋内ばかりでなく、バーベキューやキャッチボール、お泊まり会やテーマパーク旅行も実施。大学との協働も重視している。7月初め、滝沢市の県立大社会福祉学部の学生らが「子ども食堂」を企画し、保護者や子供ら約30人が参加した。誰もが楽しめる運動で交流し、お菓子作り、学食での昼食に笑顔を広げた。子供たちが大学に興味を持つ一方、学生にとっても、地域の課題に対する実践的な「学びの場」になっている。

 「子ども食堂」は、子供が訪れやすいよう小学校の学区に一つが望ましいとされるが、県内では3月時点で23カ所で、小学校数に対する充足率7・3%となっている。県は開設に向けたノウハウを盛り込んだ冊子を作成しているが、運営団体の中には、継続に向けた活動資金やスタッフ、ボランティア確保に悩みを抱えている実態もある。

 それでも、川守田さんは「子供を中心に地域が皆でつながっていくのが良い地域づくりにつながっていくと思う。5年、10年たたないと分かりませんが、これだけ参加者があって増えているのは、やはりそういう価値・ニーズがあるからではないか。継続させていきたい」と熱意を見せている。