海岸の漂着ごみや漁具・流木などで美化を啓蒙

富山県氷見市の海浜植物園で「漂着物アート展」

 海岸に流れ着いたごみや漁具、流木などを使い、芸術作品に仕上げた「漂着物アート展2019」が、富山県氷見市の海浜植物園で開かれ、地元の大学生と小学生の作品30点余りが展示された。いずれも創造性を発揮した凝った力作ぞろいだが、素材が大きな社会問題になっている漂着ごみとなると、考えさせられる。入賞した幾つかの作品を通して、制作に込めた彼らの思いを紹介する。(日下一彦)

環境保全のメッセージ込める、地元の大学生と小学生が出展

 「漂着物アート展2019」は、漂着物のほとんどが日常生活のごみであることを知ってもらおうと、(交財)環日本海環境協力センター(NPEC=富山市)などが2007年から毎年、環境月間の6月に開催している。今年は氷見市の海浜植物園1階の特設ギャラリーで先月30日まで開かれ、富山大学芸術文化学部の学生と地元の氷見市立窪小学校4年生の作品が展示された。芸術文化学部の長田堅二郎講師がプロデュースを務め、大学生は7人が出展した。

海岸の漂着ごみや漁具・流木などで美化を啓蒙

最優秀賞を受賞した「ヘルプ・アース?」。無数の薬のプラスチック容器をメインに制作している金山謡さんの斬新な発想の作品

 最優秀賞を受賞した金山謡さんの「ヘルプ・アース?」は斬新な発想の作品で、薬を多用する現代社会に警鐘を鳴らしている。海で拾ったカニとヒトデの周りに多数の薬のプラスチック容器と薬ビンを配している。「本来は生き物を救うはずの薬や医療用品が、ひとたびごみとなって海を漂うと、反対に生き物を殺傷する凶器へと化す…。この矛盾した現象を考えるきっかけになるような作品を目指した。一般の医療ごみも利用しているが、実際、海洋ごみにおける医療系ごみの割合はけして少なくない」とのメッセージを添えている。

 奨励賞を受けた鎌上大輔さんの「浸食」は、思わず“ドキッ”とさせられる。木片やペットボトル、キャップなどで海ガメを組み立てたが、骨組みがあらわでリアリティーがある。あたかも漂着ごみを食べて死に、波間を漂っているうちに氷見の海岸に打ち上げられた死骸を連想させる。「自然のものである貝殻と、人工物であるプラスチックごみとの対比で、生物や環境に起きている変化を表現してみました」と添えている。

海岸の漂着ごみや漁具・流木などで美化を啓蒙

奨励賞を受賞した「浸食」。木片やペットボトルなどで海ガメを組み立てた鎌上大輔さんの思わず“ドキッ”とさせられる作品

 同じく奨励賞を受けた岡本千尋さんの「海のドラマー」は、海岸で出会った漂着物の中で 一番目に付いたのが青と黄色の浮きだったという。捨てられた浮きを何かに使えないかと発想し、叩(たた)いてみると、黄色の部分が意外と硬く、中身が詰まっていることに気が付いた。「私が想像していたものより高めのかたい音がしたので楽器になるのではと思い、ペンキ缶や発泡スチロールを組み合わせてドラムを作りました。何年も海を漂った浮きの耐久性を、ぜひ実際に叩いて肌で感じてみてください」とメッセージしている。

 会場には第1回から昨年度まで、歴代の最優秀賞を受賞した作品12点がパネルで紹介され、次代を担う青年芸術家たちの創作への意気込みを紹介していた。同センターでは「学生たちの創造性豊かな作品から、環境保全への強いメッセージが伝わってくる」と指摘し、「アート展をきっかけにして、大切な海を守るために何をすべきか考え、みんなで行動しましょう」と提案している。

海岸の漂着ごみや漁具・流木などで美化を啓蒙

小学生の部で金賞を受賞した「毎年月をそうじしにくる人」。窪小学校の男女4人の児童で取り組んだ小学生らしいメルヘンチックな作品

 一方、窪小学校の児童の作品は、個人から数人のグループで制作した。6月3日に近くの海岸で集めた漂着物を使って25点を作った。金賞を受賞した「毎年月をそうじしにくる人」は、男女4人で取り組み、いかにも小学生らしいメルヘンチックな作品だ。「月を海とたとえて、そうじをしているところを作った」という。月の表面には回収したたくさんの海洋ごみがくっつき、それに竹ほうきを組み合わせて掃除のイメージをつくり上げた。

 また、NPEC賞の「たからがあるひみつの家」は女児2人が作り、流木を組み合わせてビニールヒモを掛け、宝箱をしっかりとガードするように工夫している。その箱の中には、「貝がらと発ぽうスチロールとヒトデをいれました」という。

 子供たちの作品と共に、「海洋ごみの現状」を伝えるパネルも展示され、5㍉以下の小さい「マイクロプラスチック」が、北極や南極、地球で一番深い海の底でも見つかっていることを伝え、資源回収の大切さを啓蒙(けいもう)していた。