「漆芸の未来を拓く―生新の時2019―」開催中
漆工芸を学んだ学生らによる斬新な感性の多彩な作品展示
大学や大学院で漆工芸を学び、今春卒業および修了した学生らによる漆芸作品を紹介する「漆芸の未来を拓(ひら)く―生新(せいしん)の時2019―」が石川県輪島市の県輪島漆芸美術館で開催中だ。恒例となっている出品者による作品解説が、6月8日開かれ、13人が作品の前で制作の意図や見どころ、苦心談などを語った。その中から5人の作品を紹介する。(日下一彦)
石川県輪島漆芸美術館で、制作意図や苦心談を学生が語る
同展覧会は、2008年度に始まり今年で12回目を迎えた。毎年、みずみずしく若い感性の作品が来館者に新鮮な驚きと発見をもたらしてくれると好評だ。今回も緻密(ちみつ)に作り込まれたものから壮大で迫力のあるもの、伝統的な技法ながら若者らしい斬新な感性で創作したものなど、多彩な作品43点が出品されている。出品大学は金沢美術工芸大学、富山大学、東京藝術大学、京都市立芸術大学、東北芸術工科大学、広島市立大学、沖縄県立芸術大学の7大学で、ギャラリートークでは13人が各作品の前で、制作の意図や見どころなどを紹介した。
富山大学大学院修士課程を卒業した平澤紗英さんの「絡繰蠍(からくりさそり)置物」は、サソリの獰猛(どうもう)でエキゾチックな雰囲気を、3Dプリンターを使って漆置物として制作した。表面は変塗と金箔(きんぱく)を併用し、外殻の質感も巧みに表現されている。内臓にセンサーが組み込まれ、人の動きを感知して威嚇(いかく)するように尾を持ち上げる。平澤さんは学部の卒業時にはクラゲをモチーフに作品作りし、他にもクモを制作するなど特徴ある生き物を描くのが楽しみという。現在、デザイン関係の仕事に就いているが、漆の技法が大いに役立っているという。
東北芸術工科大学を卒業した齋藤萌葉さんの「螺鈿飾箱」は、1辺9㌢の立方体の箱の側面全面に、青貝の殻を細かく砕いた螺鈿(らでん)の技法で加飾を施している。亀甲(きっこう)文や麻の葉文、鱗(うろこ)文などの伝統的な文様を丁寧に組み合わせてデザインされており、漆の黒と螺鈿のキラキラとした輝きの対比、さらに螺鈿の持つ美しさが楽しめ、華やかな小箱だ。同館発行の最新の「美術館だより86号」の表紙を彩っている(同館のHPでも検索できる)。
広島市立大学を卒業した岡裕香さんの「咲かす」は、磁器と漆で制作されたティーセット。ソーサーとポットは白磁に漆を焼き付けた後、呂色で仕上げ、ティーカップはあらかじめ穴の開いた磁器を制作し、その穴を金継ぎと乾漆を応用した技法で埋めつつ加飾している。ポットにつぼみ、ソーサーには葉、ティーカップに花が加飾され、お茶を注ぐという動作で花を「咲かす」ティーセットだ。いかにも女性らしい発想で、作品も愛らしく仕上がっている。
金沢美術工芸大学の杉本小百合さんの「あらみたま」「にぎみたま」は、蒔絵(まきえ)の平面パネルで、日本の神話に登場する神々の持つ二つの性質をモチーフに表現した。荒魂(あらみたま)は災いをもたらし、和魂(にぎみたま)は幸いをもたらすとされる。二面性があることから、神々が畏敬の念を持たれ、杉本さん自身が考える美しさ、ありがたさを重ね合わせて制作した。技法的には研ぎ出し蒔絵と平蒔絵を駆使し、さらに2種類の銀粉を使って奥行きを持たせている。
京都市立芸術大学を卒業した髙橋菜摘さんの「あゆみ」は、実物大のオオサンショウウオを制作した。発泡スチロールなどで原型を作り、真鍮(しんちゅう)の板やガラスなどを使い、漆を塗って本物に近い存在感を出している。大学受験の際に京都水族館で見たオオサンショウウオがモデルという。大学入学後も作品制作のイメージをつかみたいときや元気を貰(もら)いたいときに何度も水族館を訪れ、その中で生まれた作者の4年間のあゆみとこれからの思いが詰まった作品となっている。会場には、この他にも豊かな感性に満ちた作品が揃(そろ)っている。
同館館長で、漆器文化研究の第一人者でもある四柳嘉章さんは、この作品展を「漆芸の実験場」と呼んでいる。「伝統的なものをさらに掘り下げ、また思い付かないような視点もあって、どんな作品が生まれているのか、毎回楽しみです」と語り、若い創造性にエールを送っている。同展は7月8日(月)まで(会期中無休)。