「教え方次第で子供の心を元気に」
「横山利弘先生を囲む道徳研究会」が学習会
今年度から全国の公立中学校では新しい学習指導要領による「道徳科」としての授業が始まっている。小学校ではすでに昨年度から始まっているが、小中学校とも専任の道徳科教諭が配置されるわけではない。教育現場は実際のところ、「道徳の授業をどう進めるべきか」右往左往しているのが実情だ。そうした中、札幌で道徳の授業の在り方について具体的に研究し取り組んでいる教師の団体がある。「横山利弘先生を囲む道徳研究会in北海道」(通称、道徳ナビin札幌)がそれだ。定期的に札幌市内の中学校を拠点に学習会を持ち、今年3月末には同市内で全道レベルの第3回札幌学習会を開催した。(札幌支局・湯朝 肇)
「道徳科」の進め方で模擬授業
大学教授や小中校教諭、学生が参加
「和矢は帰りのバスの中でどんなことを考えたのだろうか」――こう質問を投げ掛けたのは室蘭市立水元小学校の多田陽佳教諭。3月23日、札幌市内で開かれた「道徳塾in大阪」札幌学習会で多田教諭は井美博子作の「友のしょうぞう画」を資料に、主人公の心の動きを参加者に聞いた。同学習会の模擬授業の一コマである。
ちなみに、「友のしょうぞう画」のあらすじはこうだ。
和矢(主人公)と章太は双子の兄弟のように仲の良い幼なじみ。けれども小学校3年生の1学期に章太が難病にかかり、療養のために転校してしまう。手紙を通して励まし合う2人だったが、そのうちに章太からは手紙が来なくなってしまう。和矢も何となく手紙を書かなくなって1年ほどたったある日、章太の学校の子供たちの作品展をテレビで知る。翌日、母と会場へ急ぎ、夢中になって章太の作品を探すと、そこには「友のしょうぞう画」と題して和矢の姿が描かれていた。手紙を書けなかった理由を知った和矢の目から涙があふれた。帰りのバスから見る空は青く透き通っていた。
ここで、多田教諭は「バスの中の和矢の気持ちについて、生徒になったつもりで考えてください」と質問し、参加者は全員、事前に渡されたシートに思いをつづり、ホワイトボードに張り付けていく。その後で参加者は他の参加者のシートを見て、共感するシートには赤い丸型マグネット、疑問を抱いたシートには青い丸型マグネットを張り付けていく。
このうち青いマグネットには、「どうしてそう思ったのか、その理由を聞いてみたい」という思いが込められている。そして、それぞれのシートを見ながら多田教諭が(生徒になったつもりの)参加者と対話を進めていくという具合だ。
シートを見ると、そこには「手紙が来なくなって不安だったけど、そういうことだったのか。章太の気持ちが痛いほど分かって伝わってきた」「いつまでも友達だ」「何を伝えたいかははっきりしないけれど、何とかしなくちゃ」といった文言が並ぶ。この資料を通して「友情とは、信頼とは何か」を考えていくわけである。
この日の学習会には、大阪や京都、兵庫県からの8人を含め、大学教授や道内小中学校の教諭、学生を合わせて84人が参加した。この日の模擬授業は、多田教諭のほかに江別市立第二中学校の岡崎綾教諭が「ある日のバッターボックス」を資料に「公正・公平」を問う授業を展開。進め方は多田教諭と同じホワイトボードとシート、マグネットを使って行った。そうした模擬授業に対して、「道徳ナビin大阪」に所属する貝塚市立東小学校の川崎雅也校長が、「子供たちに資料を提示し、対話させても、最終的にその話が子供たち自身の生き方につながるように進めるのがポイントだ」と指摘する。
今回、札幌学習会を企画した「横山利弘先生を囲む道徳研究会in北海道」代表の磯部一雄・札幌市立北野台中学校教諭は開催経緯について「これまで10年近く勤務先の中学校で学習会を定期的に開いていますが、全道および本州から先生たちが一堂に会する札幌学習会は今回が3回目です。道徳は教科の一つになりましたが、確立した教え方があるわけではありません。しかし、道徳の授業は教え方次第で子供たちの心を確実に元気にします。それを具現化して見せてくれたのが横山先生ですが、そうした授業の進め方を見て知ってほしい。そんな思いで取り組んでいます」と語る。
横山利弘氏は元文部科学省調査官で現在、日本道徳研究学会名誉会長。横山氏が打ち出す道徳の授業は、「子供たちの心を引き出し、元気にする」との評価を受け、現在、全国各地に「横山利弘氏を囲む道徳研究会」が組織されている。午前10時から午後5時半までの札幌学習会。参加者からは「マニュアル通りに行うのではなく、子供たち一人ひとりの表情を見詰めながら授業を行うことの重要さを知った」というような感想が多く上がった。