気付いて! 子供のSOS

北海道教育大が主催「命の教育」シンポ

 ここ数年、教育現場で、いじめが原因と思われる自殺に対する取り組みが急務になっている。自殺そのものは減少傾向にあるものの、19歳以下の若者の自殺は一向に減る気配がない。政府は平成29年7月に新しい自殺総合対策大綱を閣議決定したが、果たして、学校現場ではどう対応しているのか。北海道教育大学では平成28年度から「命の教育プロジェクト」を展開、自殺防止のための研究開発を進め、このほど、シンポジウムを行った。(札幌支局・湯朝 肇)

「よく話を聴いてあげることが大事」

医療機関や学校・家庭など「自殺対策はみんなの仕事」

気付いて! 子供のSOS

「自殺対策や命の教育」について話すシンポジストたち

 「子供たちがいのちのSOS(危機)を抱いているとき、さまざまなサインを出します。それを見逃さないで対処することが大事」――こう語るのは、安川禎亮・北海道教育大学教職大学院教授。3月6日、札幌市内で開かれた北海道教育大学教職大学院主催の「命の教育シンポジウム2019」で講師の一人として安川教授は、「SOSの気づき方とストレスマネジメント」をテーマに講演した。

 その中で、同教授は「『消えてしまいたい』とか『生きている価値がない』といった言葉や、最近よく怪我(けが)をする、モノを無くす、大切なものをあげるといった言動が目立つようになれば、それは危機のサインではないかと捉える」。その上で、「よく話を聴いてあげることが大事だ」という。特に、聴くことについては、「子供たちが発する言葉の向こう側にあるモノの理解を心掛けるようにすべきだ」と語る。すなわち、①「一人がいい」という子供に、友達や信頼できる人を求める気持ちが潜んでいる②「親が嫌い」という子供に、親を求める気持ちが潜んでいる③「何もしたくない」という子供に「何かしたい」という思いが潜んでいる④「自分はつまらない人間だ」という子供に「自分はこれでいい」と思いたい気持ちが潜んでいる⑤孤立と孤独が子供を追い詰める。孤立と孤独には人が必要だ――というのである。

 北海道教育大教職大学院では、2016年度から六つの内容を柱とした「命の教育プロジェクト」を展開してきた。それらは、「心を育てる読書教育」「ストレスマネジメント教育」「レジリエンス教育」「健康教育」「安全教育」「自殺総合対策」から成っている。

 とりわけ、「自殺総合対策」においては、自殺総合対策推進センターと連携し、平成29年度からは同センターの「地域の実情に応じた自殺対策推進のための包括的支援モデルの構築と展開方策に関する研究」に参加、その分担研究を進めている。

 同プロジェクトについて、同大学教職大学院の井門正美教授は、「虐待やDV、自殺など命に関わる問題が社会基盤を揺るがす大きな問題になっている中で、特に学校教育に焦点を当て、児童や生徒が生きやすい教育環境や社会環境を醸成しているかどうか。命の大切さ、生きることへの指向性を促進する教育になっているかどうか、学校や教師が自らの教育行為や在り方を問いただす自省作用を促すという点を重視して研究開発に取り組んでいます」と語る。

 この日のシンポジウムは、第1部で安川教授の講演の他に、「学校と教師は、子どもや若者に対する命の教育にどう取り組めばよいのか」をテーマとしてシンポジウムを展開。北海道教育庁から荒瀬匡宗・生徒指導学校安全主任指導主事、札幌市教育委員会から津田政明・児童生徒担当係長指導主事、稲葉浩一・同大教職大学院准教授、川俣智路・同大教職員大学院准教授がシンポジストとして参加した。この中で、荒瀬指導主事と津田主事はそれぞれ北海道と札幌市の自殺予防教育の取り組みについて説明した。

 また、第2部では自殺総合対策推進センターの本橋豊センター長が、「子ども・若者に対する生きることへの包括的支援」をテーマに講演した。医師でもある同センター長は、近年報道が目立つ、いじめと自殺の問題について、「報道では学校における自動性の自殺をいじめとの因果関係で結論付けるが、自殺はそんな短絡的なものではない。さまざまな要因が重なって自殺に追い込まれていくことを見逃してはならない。そういう意味で、自殺を防止するには、医療機関や学校、地域・町内会、家庭、警察、メディアが緊密な連携をもって対応しなければならない。自殺対策はみんなの仕事である」と説く。「つらいことを話すことで心が安定しすっきりする」「子供たちは聴いてもらえると、その人に親しみを感じ、自分という存在感を感じ、自信を得ることができる」(安川教授)という。大人にとって今こそ必要なのは「子供の心の声を聴く姿勢」なのだろう。