「へき地・小規模校教育推進フォーラム」開催

北海道教育大釧路校で地方での新たな人材育成などを議論

 全国的な人口減少に伴い、地方の教育現場では急激な小規模校化や人材不足が進んでいる。今や地域の小中学校は統廃合だけで問題が解決できるような状況ではなく、地方の過疎化対策を含め時代の変化に対応した教育体制の構築が急務になっている。そうした中で北海道教育大学釧路校はこのほど、「へき地・小規模校教育推進フォーラム」を開催した。地方での新たな人材育成や教育連携についての議論が交わされた。(札幌支局・湯朝 肇)

社会の変化に対応した教育体制を、「大学や自治体などと連携を密に」

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へき地・小規模学校をテーマにしたシンポジウム

 「3年前、ここ北海道教育大学釧路校を視察したことがある。その時、同校で小規模校教育に力を入れていることを知った。へき地・小規模校の教育カリキュラムを整え、学生が自ら進んで地方の学校の教育実習へ向かうことにある種の感動を覚えた。しかし、そうした取り組みが全国的知名度として広がっているだろうか」―こう語るのは、文部科学省総合教育政策局教員人材政策課の柳澤好治課長。11月17日、釧路市内にある同校で開かれた「へき地・小規模校教育推進フォーラム」の基調講演に招かれた柳澤氏は、全国に先駆けてへき地・小規模校教育へ取り組んでいる北海道教育大釧路校を評価しながらも、へき地・小規模校教育が全国学校教育の政策の支柱の一つになり得ていない点を指摘し、同校に対しては都市部の学校現場にも受け入れられる手だてを講じることの必要性を訴えた。

 また、同課長は、現代社会が情報化、グローバル化の中にあって、社会の変化に対応した人材育成が必須であることを挙げる。すなわち、2016年に内閣府は新たな未来社会を「ソサエティー5・0(人類社会を狩猟〈1・0〉、農耕〈2・0〉、工業〈3・0〉、情報〈4・0〉社会に続く社会)」として位置付け、第5期科学技術計画を発表。それに合わせて文部科学省では、ソサエティー5・0に向けた人材育成を構築すべく今年6月に大臣懇談会を持ち、あるべき社会像、求められる人材像、学びの在り方を打ち出していた。

 この中で柳澤課長は「これまでは大学、特に国立教育大学と学校現場との連携が必ずしも十分でなかったこと。また教員養成カリキュラムと学校現場で必要とされる教師の資質・能力との間にギャップがあったことがうかがえる」と指摘し、今後においては大学、学校現場、さらには教育委員会との間で情報交換、人事交流などの面で深い連携が体系的に構築されることの重要性を訴えた。

 この日のフォーラムには道内外から130人を超える教育関係者が参加。とりわけ、道内からは小中学校・高校の教員、道教育委員会などの参加の他に、道外15の大学関係者が出席するなど関心の高さを示した。

 講演会の後のシンポジウムでは、基調講演の内容を受け北村善春・北海道立教育研究所長、柿崎秀顕・全国へき地教育研究連盟会長、川前あゆみ・北海道教育大学へき地・小規模校教育研究センター副センター長の3人が「へき地・小規模校を含めた教師教育と教員養成」について行政、学校現場、大学という立場から報告を行い、議論を交えた。

 その中で北村所長は道内における地域別・年齢別教師数の実情や児童生徒数と学校規模の相関を示しながら、札幌市を除いて北海道では50代のベテラン教師の層が厚いものの30~40代の中間層が薄くなっていることを指摘。その上で、「今後、若い人材を増員せざるを得なくなるが、そうなると自(おの)ずと年齢層のバランスが歪(ゆが)んでくる。50代になっても担任以外に一人何役も担当せざるを得ないという状況になりかねない」と語る。

 さらに今後の北海道の人材育成については「広域な北海道にあっては双方向での遠隔授業や教育支援、さらに大学、自治体などと連携を密にして体制をつくり上げていく」としている。一方、10年以上も前から東京学芸大学や大阪教育大学、愛知教育大学などと「へき地・小規模校教育プロジェクト」を行ってきた川前氏は、これまでの取り組みを紹介すると当時に、へき地教育での学生の教育実習のメリットを挙げる。

 具体的には①へき地・小規模校の実態を知り、良さも課題も認識する②少人数の指導方法を工夫する③教職に就きたいという教職意識の広がりを喚起する―というのである。

 わが国の人口減少は今後も続いていく。小中学校を適正規模という側面から見れば、もはや統廃合では解決できない状況になっている。都会といえども小規模効果が避けられない中、北海道教育大学釧路校の取り組みは、今後、一つの指針になってくることは間違いない。