役割増す学校図書館、子供の自立育む役割担う

北海道学校図書館協会事務局次長 野村邦重氏に聞く

 これまで学校図書館といえば、学校の片隅にあるものと捉えかねない状況だったが、近年は学校の中で「第2の保健室」と呼ばれるほどで、児童生徒にとって“癒し”の空間になっている。学校図書館の役割や今後の課題など、北海道学校図書館協会事務局次長の野村邦重氏に聞いた。
(聞き手=湯朝肇・札幌支局長)

専任の学校司書の配置必要
教育専門職として採用を

現在、小中学校、高校には必ず図書館が設置されていますが学校図書館の歴史は。

野村邦重氏

 のむら・くにしげ 1952年1月、北海道江別市生まれ。75年3月、北海道教育大学札幌校(理科専攻)卒業後、札幌市立真駒内小学校を振り出しに市内小学校を歴任。2012年3月、札幌市立しらかば台小学校校長を退職。その後、市内の小学校で「学びのサポーター」として支援活動に励む傍ら、北海道教育大学札幌校、國學院大學非常勤講師。04年、北海道学校図書館協会理事長・事務局長などを務め、12年から同協会事務局次長。

 学校図書館について言えば、戦前は図書館設置のための法的規定はありませんでした。すなわち、学校の中に図書館はつくらなくてもよかったのです。

 学校図書館の設置が法的に義務付けられたのは、昭和28年に制定された学校図書館法でした。学校図書館は戦後の教育政策の中で位置付けられていきます。時系列的に見ると、昭和21年に文部省(当時)は「新教育指針」を発表しました。そこには、「生徒が自ら考え判断し、自由な意思を持って自ら真実と信ずる道を進むようにしつけることが大切である」と記しています。

 その翌年には日本国憲法、教育基本法、学校教育法が制定され、とりわけ学校教育法の中に図書館の必要性が謳(うた)われています。一方、同年に出た「学校設置基準」を見ると、校舎に備えるべき施設として、第1に教室、第2に図書室、保健室、第3に職員室となっており、図書室が学校施設の中で重要な役割を担う位置付けになっています。

学校図書館の意義、役割とはどのようなものであったのでしょうか。

 昭和24年、文部省が発表した「学校図書館基準」には、「学校図書館は、学校教育の目的に従い、児童生徒のあらゆる学習活動の中心となり、これに必要な資料を提供し、その自発的活動の場とならなければならない」と書かれています。前述したように戦後教育の根幹には、「児童生徒が自ら課題を見つけ、考え判断し、自立した子どもたちを育てる」がありました。それはまさしく民主主義教育の根幹です。そうした子供たちを育てる教育を担うのは学校図書館。教科書オンリーではなく、いろいろな教科書を補う資料、それらを提供するのが学校図書館の大きな役割なのです。

 そこで、文部省は同基準において、学校図書館の設置に加えて、①専任の司書教諭を置く②司書教諭は児童生徒1000人に1人、蔵書1万冊につき1人の割合で置く③司書教諭の他に事務助手を置く―などの規定を設けました。

そうした一連の流れの中で、昭和28年に学校図書館法が制定されるのですね。

 この法案には司書教諭、学校司書を置くことが明記されていたのですが、昭和28年3月の吉田茂総理大臣の「バカヤロー解散」で法案が流れてしまいます。

 次の内閣で学校図書館法は制定するのですが、法の中身が変わってしまいました。すなわち、「司書教諭は置くものの、当分の間は置かないことができる」となり、さらに学校司書においては法規定が無くなってしまいました。

 この背景には、高度経済成長時代に向けて教育課程の基準が、教育内容・制度の画一化、教科書中心学習に傾斜し、いわゆる経験学習から知識詰め込み型の系統学習へと転換したことがあります。

 結局、学校司書の法規定は無く、司書教諭は置かなくてもいいことになりますから、本来の学校図書館の機能が発揮できなくなってしまいます。

 そうした中で学校図書館法は時を経て、平成9年に改正されます。そこでは公立学校の中で12学級以上の所は司書教諭を置かなければならないと定められました。

 こうした法改正の背景には、それまでの系統主義的な教育の反省から、平成10年の学習指導要領改訂における「生きる力」、「自ら学び考える力」を重視する教育が指向されるようになったことがあります。

ゆとり教育による学力低下から学力重視へ転換した平成20年の学習指導要領改訂でも、学校図書館の重要性は指摘されていますね。

 平成20年の学習指導要領改訂では、「ゆとり」か「詰め込み」かではなく、基礎的・基本的な知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力などの育成、それらをバランスよく伸ばすという方向に向いました。その中で、学校図書館の活用が多面的に示されていきます。朝読書などの読書推進事業が活発になったのもこの時期ですね。

 そうした流れの中で、学校図書館法は平成26年に改正されます。そこには、「学校司書が置くことができる」という努力義務ではありますが、法として明文化されました。これで学校図書館には、司書教諭と学校司書の2つの職種の「人」がいることになります。ですが司書教諭は教諭との兼務でいわば「充て職」です。司書教諭といえども授業は持ちますし、担任も持たざるを得ません。

 一方、学校司書はおおむね図書館の仕事に専念できます。学校教員とは専門性を異にする教育専門職として任に就くことができます。現状では、嘱託あるいは臨時的な任用が多いなど待遇面で冷遇されている面はありますが、とにかく法改正で学校司書が明文化された意義は大きいと思います。

そうした中での課題とは何でしょうか。

 将来、「学校図書館の専門的職務を掌(つかさど)る」のは誰になるか、を考えた場合、すでに高校で神奈川、三重、山梨、長野県など先進的に取り組んでいる例を見据えて考えれば、それは「専任、専門、正規」の「学校司書」が担うことになると思います。ただ、この問題はまだまだ道半ばといえます。特に、高校への学校司書の配置は、自治体任せではなく早期に学校制度・教育法制上の位置付けが国として成されるべきであり、学校司書は事務職や実習助手などとしてではなく、教育専門職としての採用が必須と考えます。

 また、司書教諭を置くにしても現行の12学級以上ではなく、6学級以上に置くようにすべきではないかと考えます。というのも、北海道のような地方では12学級を持つ学校は少なくなっています。規模の小さな学校には司書教諭はいらないというのではなく、図書館担当者は必要なことから司書教諭の設置基準を下げるべきだと考えています。