学校で児童に伝えたい干潟の感動
東京・葛西臨海水族園で教師にセミナー
干潟に生息するさまざまな生き物への理解を深め、小学校の授業に生かせる観察セミナー「干潟を体験! 環境と生き物を知る」(葛西臨海水族園主催)が先月26日と27日、葛西海浜公園(東京都江戸川区臨海町)で行われた。同セミナーは自然のフィールドに出る機会の少ない小学校教員が、学校の児童たちに生き物の面白さを紹介できるよう企画されたもので、関東近隣の小学校の教師ら20人余りが参加した。(石井孝秀)
波の音や潮の香り、五感で体験
参加者は三つの班に分かれ、案内を担当する同園のスタッフから「毒を持つアカエイなど危険な生物への注意」を受けて干潟に向け出発。目の前に広がる干潟は一見、生き物の気配がしないが、よ~く見ると地面に無数の穴がポツポツ開いている。スタッフが穴のある地面をシャベルで掘ると、中からコメツキガニがゴソゴソと出てきた。
砂の中に含まれる藻類や有機物を食べるコメツキガニは、大きさが1㌢程度の小さいカニ。甲羅も砂の色に似ており、目を離すと砂地と見分けがつかず、どこに居るか分からなくなってしまう。
“食事”でこしとった砂を団子状に丸める習性を持つコメツキガニは、巣穴の近くに砂団子を作っているので居場所がすぐ分かる。まだ、午前中だというのに、既に大量の砂団子があちらこちらに。チドリなど天敵の鳥をすぐ発見できるよう、目が飛び出しているのも、このカニの特徴だ。
セミナーでは観察のポイントの一つとして、同じ干潟に生息するカニでも環境が少し異なれば目や体の形状に違いが出てくることに注目して観察が進められた。
泥地に生息するオサガニは目を潜望鏡のように突き出して周囲を確認することができる。一方、岩場にすむタカノケフサイソガニは岩の隙間に潜り込むために体が平べったく、目はあまり飛び出していない。目が飛び出しているコメツキガニなどとの違いだ。
セミナーの司会を務めた同水族園の教育普及係・西村大樹さんは「干潟のカニだけを観察してみても、それぞれの暮らしに適応した体のつくりになっていることが分かる」と説明した。
生き物を見つけるたびに教師たちからは「いるいる!」「すごい!」と大きな歓声が上がる。中には陸に打ち上げられたミズクラゲを興味深そうに触る参加者も。また、海水が干潟に取り残されてできた「潮だまり」に魚用の網を持って入り、水中の生き物を探し、ハゼの仲間の稚魚を捕まえる場面もあった。
観察が終わり集合場所に戻ると、各班が捕まえた珍しい生き物を持ち寄って紹介し合った。珍しい生き物について参加者たちは興味津々で「どこにすんでるんですか」「何を食べてるんですか」とスタッフに質問を浴びせかけた。
午後は水族園に移動し、「学校の授業でフィールドワーク観察をまとめる工夫例を考えてみよう」をテーマに各班でグループワークを行い、その結果を発表し合った。観察で発見した生き物たちに成り切る「レクリエーションゲーム」を作成した班は、藻類から始まり、ジャンケンに勝ったらカニ、海鳥、人へと進化していくゲームを披露。生き物たちの食物連鎖について楽しく紹介した。
このほか、干潟が持つ水質浄化作用について西村さんが紙芝居を使って解説。生活排水などに含まれるチッソやリンを干潟の藻類などが吸収していることを説明した。「東京湾では埋め立てが行われて、干潟が昔と比べて失われている。そうなると植物プランクトンが増え過ぎて水質が濁ってしまうが、干潟があると皆さんがきょう見てきたように水が透き通ってくる」と西村さん。
さらに生物の水質浄化の力を確認する実験として、濁った水の中にアサリを入れた容器を準備。しばらく放置して、プログラムの最後に、容器を見ると、中の水がきれいになっており、スタッフが容器を見せると、参加者からは驚きの声と拍手が沸き起こった。
埼玉県の小学校勤務の住友幸子さんは「生きたカニを実際に見るのと、図鑑や動画で見るのは全然違う。死んだ魚の臭いとか、波の音を聞いたり風を感じたりと、五感を使って体験できるのもいい。学校の子供たちを海に連れて行って、捕まえた生き物を自分たちで飼うということもやってみたい」と、この日の体験を授業で生かしていきたいという。