再発防止は「人生の目標発見が大切」
薬物リハビリ施設「ナルコノン」台湾代表が講演
教育現場などで薬物乱用防止の講演会を行っている「日本薬物対策協会」は先月14日、「世界保健デー」(4月7日、世界保健機関〈WHO〉後援)に合わせて、東京都内で、薬物乱用防止イベントを開いた。薬物犯罪は再犯率が高いことから、再犯防止への関心が高まる中、講師として来日した台湾のリハビリ施設代表が紹介した薬物離脱とリハビリのプログラムが注目を集めた。(森田清策)
世界保健デーに合わせイベント
世界保健デーは1947年4月7日にWHOが設立されたことにちなんで設定された。WHO設立70周年を迎える今年のテーマは「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」。これは「全ての人が適切な予防、治療、リハビリなどの保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態」を意味する。
イベントであいさつした同協会の世話役、馬崎奈央さん(42)は「薬物問題にとっては、予防教育が重要な鍵になる」と指摘。2007年の同協会設立からこれまで、小中高校、大学、教育委員会、保健所などで予防のための講演会活動を続け、その受講者は10万人に達したことを紹介した。
また、米国で大麻を合法化する動きが広がっていることを説明するとともに、「薬物依存にある人たちに対する治療についても、依存している薬物から抜け出すために代替薬物を与えるという、まったく効果のない治療が欧米諸国では行われており、これを日本でも行っていこうという流れもある」と、代替薬物を使った治療の広がりに危機感を示した。
わが国では、昨年1年間の大麻事件の摘発件数が約4000件に上り、過去最悪となった。中でも、高校生の摘発が13年以降の5年間で約5倍に増加するなど、若者層への“汚染”が目立つ。インターネットを通じて、依存性がないという大麻への誤った情報が広まっていることがうかがえ、義務教育段階からの薬物防止教育の重要性が浮き彫りになっている。
一方、台湾から来日したのは薬物依存からのリハビリ施設「ナルコノン」台湾代表のタン・ヨウケンさん(48)が「薬物はなぜダメなのか―体験者、そしてリハビリ施設経営者だからこそ語れること―」と題して講演した。
ホームページなどによると、ナルコノン(薬物なしの意味)とは「サイエントロジー教会」(本部・米国)の創始者L・ロンハバード氏(故人)が開発した手法を利用した薬物離脱とリハビリテーションのプログラムで、世界20カ国以上でリハビリテーションセンターを展開している。
代替薬物を用いずに、栄養処方、運動、サウナによって有害な薬物の残留物を取り除き、最後に「薬物と無縁の人生を送り続けるために必要な技能を身に付ける」という特徴がある。
タンさんは16年間も薬物依存状態になったが、14年前にナルコノンのプログラムを受けて薬物をやめた。その後は、台湾で刑務所にいる受刑者の更生の仕事に従事し、これまでに2000人以上の薬物乱用者を救ってきた。このほか、小中高校で講演活動も行っており、その功績により、2012年に台湾総統より表彰されている。
タンさんによると、台湾では、学生が薬物に手を出す割合が過去10年間で20倍になり、小学生も手を出すケースも報告されている。また、薬物犯罪による受刑者は、全受刑者の半分を占める。
「リハビリ終了後に再度薬物に手を出してしまうのは一般的には当たり前のこと。それほど、薬物犯罪の再犯率は高い。しかし、ナルコノンのプログラム終了者は、再度薬物に手を出さないため、非常に注目されている」と語る一方、乱用者の家族も悲惨な状態にあるため、家族のためのセミナーも実施していることを説明。そして、「予防は治療よりも大切」と強調した。
最後に、「薬物の問題を本当に解決するには、その人の人生の目標を見つけることが大切。生きたい、何かをやりたい、という気持ちになった時に初めて薬物から離れることができる」と訴えた。