虐待予防に訪問型支援充実を、全国「家庭教育支援チーム」が報告会

 子育て家庭を教育支援する「家庭教育支援チーム」が発足して10年。子供が育つ家庭環境が複雑化する中、学校・家庭・地域をつなぐ支援チームの役割は増している。3月15日、全国「家庭教育支援チーム」の関係者が集い、家庭教育支援シンポジウムが東京・渋谷区の国立オリンピック記念青少年総合センターで開催された。虐待予防に向けた訪問型支援に取り組む支援チームの活動と課題をリポートする。(横田 翠)

役割大きい「心の扉開ける」支援員

 家庭教育支援チームは、子育て経験者をはじめとする地域の多様な人材で構成され、保護者への学びの場の提要や地域の居場所づくりや訪問等による家庭教育支援を行う。全国616の支援チームの中から、平成29年度は茨城県高萩市など25の支援チームに文部科学大臣賞が授与された。

全国「家庭教育支援チーム」が報告会

活動報告をする秋田県男鹿市の秋山協子氏(左から2人目)、鹿児島県いちき串木野市の黒江康子氏(右端)ら

 授賞式の後、シンポジウムでは、大阪府立大学教授・山野則子氏をコーディネーターに、秋田県男鹿市家庭教育支援チームと鹿児島県いちき串木野市家庭教育支援チームの報告を交えた討議が行われた。

 男鹿市は人口約2万8千人。孤立化する子育て家庭を支援しようと、10年前に支援チームを設立した。子育て家庭の現状とニーズを把握しようとアンケート調査を行ったところ、訪問希望はゼロ。最初から訪問は抵抗感が強いことが分かり、幼稚園や保育園、PTA研修など、大人が集う場所に「お茶っこサロン」と称して出向き、保護者が気になることや悩みを気軽に話せる、人と人をつなぐ場を作っていった。サロンを起点に各施設・学校・団体等との連携が生まれ、イクメン講座や子育て元気アップ講座などニーズに合ったさまざまな学習会を開催できるようになった。

 報告に立った同市家庭教育支援チームの秋山協子代表は10年の歩みを振り返り、「成果はすぐに見えないが、たくさんのつながりが生まれた。小さな種を蒔(ま)き続けることが大切だと感じている」と話した。

 いちき串木野市は学校・地域・企業・家庭が一つのチームのように、機能的な活動を展開している。同市は薩摩藩時代に五代友厚、森有礼などを英国留学に送り出した地。「地域の子は地域で育てる」という子育て支援の伝統があり、昭和49年に旧串木野市婦人会が「乳幼児を持つ母親学級」を開設している。

全国「家庭教育支援チーム」が報告会

 支援チーム発足の翌年平成21年度から小学校1年生の長子がいる家庭訪問を年3回、27年度から2年生にも年1回、計4回の家庭訪問を行っている。さらに「ほっとルーム」出前サロン「おあしす」による相談活動、電話や来室による相談にも力を入れている。

 支援チームの活動は「ほっとルーム」だよりとして、学校、幼稚園・保育園、保護者、民生委員、子育てグループ、企業などに3000部配布。家庭教育支援協議会を開催し、学校・家庭・地域の連携を深めることで、効果的な支援活動につなげている。

 同市支援チームの黒江康子さんは、「当初、『また来てくださるんですね』と言われたのは一軒だけ。支援員の対応力を向上し、『心の扉をノックし、思いを聞いてあげる』という姿勢で10年根気よく取り組み、家庭訪問が定着していった」と話す。地域・家庭の孤立化の中、コミュニケーションの苦手な保護者が目立ってきたという指摘もあり、「心の扉を開くまでノックし続ける」、根気強い取り組みが求められている。

 いちき串木野市のように、学年を限定したベルト型訪問支援の取り組みで成功している事例は多くはない。昨年6月、政府の教育再生実行会議・第10次提言では、「家庭教育支援員の配置促進による訪問型教育支援の充実」が示されたが、個人情報の問題や訪問への抵抗感が強いなど、取り組みに苦慮しているというのが現状だ。

 家庭教育支援は成果が目に見えにくいため、予算の確保が難しいという課題も挙がった。「学校・家庭・地域をつなぐ仕組みづくり」を提案している山野氏は、継続的、発展的な活動にするために制度化の必要性、不登校や虐待の問題などを未然に防ぐ予防教育の重要性を強調した。

 共働き世帯の増加、貧困状態にある母子家庭の問題など、子供が育つ環境は複雑かつ深刻化している。子育て家庭の「つなぎびと」として、「心の扉を開ける」家庭教育支援員の役割は大きい。