新学習指導要領の全面実施、力量が問われる教師

北海道師範塾「教師の道」会長 吉田洋一氏に聞く

 文部科学省が示した新しい学習指導要領が平成30年度(幼稚園)から随時、全面実施される。小中学校、高校、特別支援学校においては周知・教科書の作成および検定・採択などを経て小学校・小学部は平成32年度、中学校・中学部は33年度に全面実施、さらに高校・高等部においては34年度の実施予定となっている。人口減少の中で今後の日本の将来を見据えた場合、子供の教育は極めて重要な課題の一つ。新学習指導要領を踏まえ、日本の教育のカギを握る教師の在り方などについて北海道師範塾「教師の道」の吉田洋一会長に聞いた。
(聞き手=湯朝肇・札幌支局長)

社会に開かれた教育課程へ
子供の能力どう引き出すか

来年度から新しい学習指導要領が幼稚園・幼稚部をはじめとして随時全面実施されます。新学習指導要領のポイントといえば、「社会に開かれた教育課程」と「主体的(アクティブ)で対話的な深い学びを実現する授業」ということになるのでしょうか。

吉田洋一氏

 よしだ・よういち 1947年生まれ。北海道岩見沢市出身。明治大学を卒業後、北海道庁に入庁。政策企画部局を経て2006年に北海道教育委員会北海道教育長に就任。北海道教育長退職後は社会福祉法人北海道社会福祉事業団理事長に就任。また、北海道師範塾「教師の道」の設立に関わり、現在に至る。

 「社会に開かれた教育課程」は、新学習指導要領のキーワードの一つと言えます。学校が地域に開かれている。地域との連携をもっと深めていく。子供も地域社会に所属していることから社会に開かれた教育を行っていかなければならない。そういう意味では、学校側も各教科の指導について当然、地域の力を活用した形で展開していかなければならないという点では、これまで以上に「社会に開かれた教育課程」をつくり上げていかなければなりません。ただ、それを実現するためには、校長をはじめとした学校側のマネジメント能力が強く問われてくることになると思います。

 実は、「社会に開かれた学校」あるいは「地域との連携」については昔から言われていることなのです。しかし、実際に授業の中で地域と連携し、「地域社会の人・物・伝統」等を授業の中でカリキュラムとして組み入れるとすれば、意図的・計画的でかつ精力的なマネジメントが必要となってきます。

 一方、主体的で対話的な深い学びを実現する授業ということで文科省はアクティブラーニングを推奨しています。授業では単に知識を教え込むだけでなく、児童生徒らに自分たちで考えさせ、主体的な深い学びをさせることを目的にしています。

 アクティブラーニングとは体験・調査学習やグループワークを通して議論し、そこから最適な答えを見つけ出そういう学習指導方法のことですが、いざ実践し成果を上げるとなれば簡単なことではありません。

 実は授業の中でグループに分けて議論させるという手法は新しいことではなく、これも昔からやってきました。ただ、そこでの問題は、議論させるに足りるだけの十分な基礎的基本的な知識のないままで、グループをつくったとしても、積極的に参加できる子と参加できていない子がどうしても出てくるということです。何が課題なのかもよく理解していずに、また知識のないままで、グループに溶け込めず孤立する子をどのようにフォローしていくかという課題が生じてきます。

 アクティブラーニングを導入すれば必ず主体的で対話的な深い学びが実現するというものではないわけです。どちらにしてもこれからの教育は、「社会に開かれた教育課程」を含めて地域の活力を最大限に利用しながら教育実践をする。そういう時代になってきたことは間違いありません。そうした中で子供たちに深い学びを体得させるわけですから教師の力量がもっと問われるということになります。

少子高齢化によって人口減少が進み、地域に活力がなくなってきています。地方自治体では教育機関としての学校を地域の中核として捉えて街づくりを推し進めようとしているところも出てきていますが。

 確かに日本は今後、人口が増えていくとは言い難い状況です。今の子供たちが成長し結婚しても、彼らの子供たちが生まれるのはこの先20年、30年もかかる話です。結婚を希望する男性・女性が減少すれば、人口は増えず市町村の規模は自ずと小さくなっていくわけですから深刻です。そんな中で地方に活力を持たせるには、若い人がそれぞれの土地で結婚して子供をつくり、子育てしていけるような環境をつくっていくことが重要だと思います。そういう視点からすれば「教育の無償化」は評価できます。というのも教育は医療と並んでお金が掛かります。もちろん、無償化だけでいわゆる教育格差が解消するとは思いませんが、少なくとも、能力のある子に必要な教育を施し、さらに能力を伸ばして社会に巣立って行けるよう支援していくことは日本の将来にとっても有益なことでしょう。

その一方で、地域の中核としての教育機関特に高校への入学者が少ないということで廃校になることに地域の反対の声があります。

 人口減少の中で地域の拠点となるのは学校だということは、以前から言われてきたことです。確かに高校などの教育機関はコミュニティーの中心になるとの主張があります。ただ、高校は後期中等教育を授ける教育機関としての責務があります。小中学校の場合は義務教育ですから、子供がある程度少なくなっても複式授業をしてでも地域での教育を保障しなければならない側面があります。しかし、高校の場合は義務教育ではありませんし、義務教育に引き続く後期中等教育を授けるという教育機関としての機能に着目すれば、生徒の数がどんなに減っても学校だけは残して欲しいという考えには賛同し難いものがあります。

 もちろん、遠隔授業などを活用することで小規模校の教育力を維持するということは不可能ではないと思いますが、しかし、入学者が少なくなっていけばいずれ存続か廃校を決断しなければならない時が来るでしょう。

 地域の人たちは、高校が無くなったら地域が寂れるから困ると言いますが、実は高校が無くなる原因は高校だけにあるわけではありません。少子化や産業構造の変化の中で、子供の数が減り地域に活力が失われていく中で、高校自体も存続のための基盤が損なわれてしまっているということなのです。ですから、高校の存続は、単に高校を残せばよいという発想ではなく、むしろ、地域の人たちが主体となって新しい活力ある町づくりを進めていく、その中で高校の位置付けを明確にしていくことが必要ではないでしょうか。そういう意味で、島根県立隠岐島前高等学校が地域社会と共に行った数々の工夫は参考になるでしょう。