高校指導要領案、大学入試と連動せねば画餅に
9年ぶりの高校学習指導要領案が、昨年の小中学校指導要領の告示に続いて公表された。討論や発表を通じて、自ら問題を探し出し、解決する力を身に付ける「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)を全教科で導入する。
「歴史総合」「公共」を新設
“理科系”の生徒が歴史や地理、“文科系”の生徒が物理や化学などを学ぶ機会を増やす目的もあり、日本史と世界史を合わせて学ぶ「歴史総合」、18歳選挙権の導入に伴って主権者教育を行う「公共」を創設するなど、教科内容を大幅に再編した。
新教科「地理総合」などで、竹島(島根県)、尖閣諸島(沖縄県)がわが国固有の領土と初めて明記された。英語においても、小学校で教科化され、高校までに覚える単語が増え、読む・書くという従来型に加え、聞く・話すという発信力強化にも力を入れている。
“脱ゆとり”を継承しながら、暗記中心から思考中心への転換は評価に値する。文部科学省は3月15日まで意見を公募し、年度内に告示、2022年度の新入生から実施される。
中央教育審議会では16年の答申で指導要領改定と大学入試改革について「一体的に改革を行うことが成功の鍵」と訴えた。文科省は既に、大学入試センター試験の改革に着手しており、マークシート式の現行方式に代え、20年度から始まる「大学入学共通テスト」は国語と数学に記述式問題を導入する。
新テストの方針は「知識・技能を十分有しているかも評価しつつ、思考力・判断力・表現力を中心とした評価もする」というものだ。大学入試に向けた“予備校的要素”も強い高校での授業は、各大学の入試体制が、どこまで改革され、採点・評価がどうなるかに左右される。
また、新教科「歴史総合」を例に挙げると、日本史を教えていた教師が世界史の部分も教えることになり、その逆のケースも起きるため、教師の負担は増える。内容は削減されていない中で「主体的・対話的で深い学び」を保障できる内容になっていない。
こうした学びを指導するには時間がかかる。討論などを中心にした学習方法についていけない生徒のフォローアップも必要になり、通常の学習時間では到底足りない。最低限の内容を教えつつ、討論・発表を交え、生徒の“やる気”を引き出す授業を、いかに展開するか。現場の教師の苦悩は続く。
「チーム学校」校長主導で
教師は進路指導や会議出席、各種の報告書作成、部活や課外活動の引率のほか、生徒のいじめや不登校、非行、健康など処理しなければならない問題が山積している。校長、副校長、教頭ら学校の管理職が先頭に立って指導力を発揮し、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、学校事務員、そして家庭や自治体の教育関係機関などによる「チーム学校」が教師との連携を深めなければならない。
ただでさえ、過労死レベルと言われる教師の超過勤務を解決することも同時並行的にしなければ、改定内容は絵に描いた餅になってしまう。