沖縄・那覇市の議員や教育関係者ら、スタディクーポン導入へ勉強会
“子供の貧困”解決は「放課後格差」解消から
経済的な理由から塾などの放課後活動ができない生徒が使える「スタディクーポン」を提供する取り組みが、東北の震災地や関西を中心に一部で展開している。子供の貧困率が全国一高い沖縄県ではこのほど、地方議員が勉強会を開き、導入の可能性を検討した。(那覇支局・豊田 剛)
高い需要、課題は資金不足
厚生労働省が発表した「2016年国民生活基礎調査」によると、全国の子供の貧困率は13・9%でOECD(経済協力開発機構)諸国の中でも高い水準にある。ただ、この貧困の定義は生存の危機にさらされる「絶対的貧困」ではなく、所得が標準の半分に満たない世帯で暮らす「相対的貧困」を指す。中でも、沖縄県は子供の貧困率が全国の2倍以上の29・9%(沖縄県調査)で全国ワースト1位だ。
こうした中、上里直司那覇市議は7日、子供の貧困対策で独自の取り組みをしている公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(CFC)の今井悠介代表を招き、沖縄県那覇市厚生会館会議室で議員や自治体、教育関係者らを対象とした勉強会を開いた。
上里市議がCFCを知ったきっかけは、沖縄出身の職員の存在を知ったこと。現在、関西事務局で働く有銘佑里さんは、大学卒業後、沖縄の「子供の貧困」が問題視されたことをきっかけに、CFCに携わるようになった。「おなかをすかせても表現できない多くの子供たちの力になりたい」という思いで活動を続けている。
CFCは、1995年の阪神淡路大震災が原点になっている。今井代表は当時、学生がボランティアで子供たちを学習支援している団体のことを知った。大学卒業後、今井さんは公文式教室(日本公文教育研究会)に入社したが、勉強したくても月謝が原因で来なくなった子供たちを目の当たりにした。2011年3月、東日本大震災を契機にCFCを設立し、14年に公益社団法人に認定された。
相対的貧困家庭の子供たちは、「何で僕だけできないの」という思いを抱き、やがて「どうせ僕なんて」と卑屈になっていく。「経済的環境が原因で夢を諦めてしまう子供たちは、思い通りの進学や就職ができず、大人になって貧困に陥るという『貧困の連鎖』を生んでいる」と今井代表は指摘する。
今井代表は、教育格差は、すなわち「放課後格差」であり、この格差をなくすことが問題解決につながると強調する。
では、なぜ塾代など放課後の格差が問題なのか。文科省の調査によると、公立の小学生の教育関連支出のうち、68%が学校外活動費というデータがある。すなわち、塾や部活動などの放課後活動に使われている。中学生もほぼ同様の数字だ。
貧困家庭の子供たちの支援では、給付型奨学金や無料塾などが代表的だ。現金給付型の奨学金の場合、必ずしも子供の学びに使われない可能性がある。また、従来型の貧困家庭の子供たちだけを対象にした無料塾や子供食堂などのプログラムにも課題がある。支援を受けるべき子供たちが、周りから“特別扱い”とレッテルを貼られ、通うことを嫌がる子供たちも多いという現状がある。
「スタディクーポン」とは、プロジェクトに賛同する塾や家庭教師、NPOなど学校外の教育機関で授業料などの支払いに使うことができるクーポン券だ。クーポンを使って学習塾に通えば、クラスメートと同じ環境で塾や部活動、習い事に通えるメリットがある。
現在、クーポンが使える塾は900教室以上あり、CFCは「子供たちのニーズを聞きながら、随時拡大していく」という。
自治体レベルでも共感の輪が広がっており、宮城県、大分県、大阪市などは、それぞれ独自の基準を定めてスタディクーポンを支給している。4月からは東京都渋谷区でもサービスが始まる。
ただ、子供たちの需要に供給が追い付かないという課題がある。資金不足が原因で、これまでに6000人以上の有資格の子供たちにクーポン支給を断らざるを得なかったという。CFCは、企業や団体、自治体に支援を呼び掛けている。