どう見る北の脅威、今年後半に国連制裁崩壊も ラリー・ニクシュ氏

どう見る北の脅威

米戦略国際問題研究所上級アソシエイト ラリー・ニクシュ氏(上)

五輪を韓国誘導に利用
米韓軍事演習中止を要求か

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が妹の与正氏を平昌冬季五輪に派遣した狙いは。

ラリー・ニクシュ氏

 ラリー・ニクシュ氏 米ジョージタウン大で修士、博士号を取得。米議会調査局(CRS)のアジア問題専門官として43年間勤務。現在、米大手シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)上級アソシエイトなどを務める。

 北朝鮮は韓国の世論と対北政策を和らげることを狙ったプロパガンダの劇場として五輪を利用している。正恩氏の妹はその戦略の要だ。南北間の「五輪の和解」を継続させるために、韓国は北朝鮮に譲歩すべきだという見方を韓国内で広げることを狙っている。

 問題は五輪後の南北協議で北朝鮮がどのような立場を取るかだ。北朝鮮は難しい要求をしてくる可能性が高い。その可能性が最も高いのが、毎年2回行われる大規模な米韓合同軍事演習の中止だ。

 文在寅韓国大統領は、自らの政党やコアな支持者から「太陽政策」に戻るべきだという強い圧力を受けている。正恩氏はこれを利用し、文氏に軍事演習の中止を迫るだろう。

文大統領はどう対応するだろうか。

 文氏は盧武鉉政権で「太陽政策」のアーキテクト(設計者)だった人物だ。彼は本質的に、北朝鮮に利益を与える政策に戻るべきだという信念の持ち主だ。

 ただ文氏も、北朝鮮の核の脅威が進展していることを理解している。文政権はトランプ米政権と五輪が終わるまで合同軍事演習を延期することで合意したが、中止はしないという確約をしていると思う。

 また国連制裁に沿った政策を維持する必要性も認識している。従って五輪後の南北協議では、文氏は人道支援の提供にとどめ、開城工業団地や金剛山観光の再開を提案するまでには至らないのではないか。

五輪は緊張緩和に役立つか。

 五輪の効果はごく小さなものにとどまるだろう。長期的には全く効果がない。2000年シドニー五輪の時も、南北の合同入場行進が実現し、今と同じような高揚感と楽観論が特に韓国内で高まった。だが五輪が終わると南北関係は何も進展しなかった。金大中、盧武鉉両政権が太陽政策の下で約80億㌦の経済支援をしたにもかかわらずだ。

 シドニー五輪で合同入場行進が行われていたまさにその時、金正日総書記はパキスタンに送った北朝鮮の核技術者にA・Q・カーン博士の研究室で核弾頭の開発をさせていた。カーン氏は中距離弾道ミサイル「ガウリ」用の核弾頭を開発するが、ガウリの原型は北朝鮮が提供した「ノドン」だ。正日氏は核技術者にノドン用核弾頭の開発をさせていた。北朝鮮は現在、約60発の核弾頭を保有しているとみられるが、そのほとんどがノドン用だ。

五輪後に危機が再燃するということか。

 真の問題は、北朝鮮が米本土を核弾頭で攻撃できる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の生産・配備を開始した後だ。おそらく今年後半にその時がやって来る。

 北朝鮮のICBM配備が進行中であることを世界が知れば、中国やロシア、さらに東南アジア、欧州諸国が、制裁は機能していない、北朝鮮に対して融和的な政策が必要だと主張し始めると私は予想する。中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は既にそのような主張をしている。

 もし私の予想が正しく、今年後半に国連制裁の崩壊が始めれば、韓国内でも融和路線を求める声が急速に広がるだろう。その時、文大統領は制裁緩和を含め北朝鮮への利益提供を拡大する可能性が高い。

 正恩氏はそのシナリオを描き、もう数カ月間を乗り越えようとしている。

(聞き手=編集委員・早川俊行)