核搭載ICBM完成なら米で「融和論」広がる恐れ

どう見る北の脅威

米戦略国際問題研究所上級アソシエイト ラリー・ニクシュ氏(中)

米国が対北軍事攻撃に踏み切る可能性は。

ラリー・ニクシュ氏

 極めて低い。トランプ大統領が軍事攻撃の可能性を示唆するのは、中国を心配させて北朝鮮に圧力をかけさせる「心理戦」の一環だと私は解釈している。

 見過ごされることが多いが、トランプ氏は韓国国会での演説で朝鮮戦争について多く語っている。この中でトランプ氏はソウルが完全に破壊されたことに言及しており、軍事攻撃がソウルにもたらす危険性を理解している。マティス国防長官、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)も、軍事攻撃が朝鮮戦争を再び勃発させる危険性を理解しており、このことはトランプ氏に伝えてあるはずだ。

 また先制攻撃しても、北朝鮮の核ミサイルをすべて取り除くことはできない。それらの多くがどこにあるか分からないからだ。機能すると考えられる唯一の攻撃は、全面攻撃だ。だがこれは外科手術的攻撃ではなく、朝鮮戦争の火ぶたを切ることになるだろう。

米朝対話の可能性は。

 北朝鮮が米国との交渉を望むのは、彼らが米本土を核弾頭で攻撃できる大陸間弾道ミサイル(ICBM)を手に入れた時だ。その時、北朝鮮は「最大限の強さ」を備えた立場から米国と交渉できると、金正恩朝鮮労働党委員長は信じている。その時はおそらく今年後半にやって来る。北朝鮮から米国に交渉を提案してくるだろう。

 その時の交渉テーマは非核化ではない。北朝鮮は朝鮮戦争を正式に終わらせる平和協定の交渉を求めてくるだろう。その中には在韓米軍の撤収も含まれる。

 正恩氏は核搭載のICBMを配備すれば、北朝鮮の交渉担当者は米国にこう主張できると信じている。「あなたがたは今、サンフランシスコが核攻撃されることを心配している。在韓米軍の撤退を含む平和協定をわれわれと結べば、サンフランシスコを心配する必要はなくなる」と。

米国はこれにどう対応するか。

 北朝鮮が米本土を核攻撃できることが明確になった時、米国内で「韓国に対するコミットメントを維持すべきか、それとも北朝鮮に譲歩して在韓米軍の撤収を開始すべきか」という全く新しい議論が巻き起こるだろう。核攻撃を受ける可能性のある西海岸選出の議員らからは、北朝鮮との平和協定交渉を求める主張が出てくることが予想される。

 米本土を攻撃できる核ミサイルは、米国の韓国政策のすべてを正恩氏に有利な方向に変えてしまうのだ。日本と韓国は米国内の議論を見て、米国のコミットメント、核の傘の信頼性に懸念を強めるだろう。

 平和協定問題に対する立場が定まっていないことは、米国の政策的弱点だ。正恩氏はこれを利用してくるだろう。米国はこれまで、非核化が実現するまで平和協定は交渉しない、との立場だったが、北朝鮮が核搭載のICBMを手に入れたら、非核化はもはや実現可能な政策目標ではなくなる。米政府は平和協定問題に対し新たな立場を定める必要がある。

北朝鮮は軍事的挑発を強めるだろうか。

 これは将来の深刻な脅威だ。核搭載のICBMを手に入れた正恩氏は、2010年の韓国哨戒艦撃沈や延坪島砲撃よりも大規模な挑発行為ができると確信しているかもしれない。

 北朝鮮は米韓に対し、挑発に反撃してきたら核攻撃すると脅迫するだろう。米韓は共同の反撃計画を作成しているが、正恩氏は核搭載のICBMがその抑止力になると信じているかもしれない。

 日本海で北朝鮮の潜水艦が日本の船を沈める事件が起きたらどうなるか。考えられない話ではない。

(聞き手=編集委員・早川俊行)