エゾシカの肉を有効活用、ピザやワンタン作って試食
NPO法人エゾシカネットが子供料理教室開く
北海道にのみに生息するエゾシカ。高い繁殖力から生息域を拡大し、北海道内ではエゾシカによる農作物や森林などへの被害が相当数報告されている。北海道は個体数の管理を進めているが、被害件数は一向に減る気配がない。その一方でエゾシカ肉は低脂肪で鉄分やたんぱく質が豊富で健康的な食材として知られている。エゾシカの有効活用という視点からNPO法人エゾシカネットはこのほど、エゾシカ肉を使った「子どもシカ肉料理教室」を開催した。(札幌支局・湯朝 肇)
主催者「郷土の食資源を知って」
「エゾシカ肉の入ったピザってメッチャおいしいね」-12月10日、札幌市内の東区民センターで開かれた「子どもシカ肉料理教室」に参加した小学生の一人が笑顔でこう語った。
この日の料理教室を主催したのはNPO法人エゾシカネット(水沢裕一理事長)で、札幌市内からおよそ20人の小学生が集まった。料理のメニューはエゾシカピザ、シカ肉のワンタン、季節サラダの3品。エゾシカピザはレンガほどの大きさのシカ肉(もも肉)を湯煎した後、焼いてローストディアを作り、そこからピザの具材を作るという本格的なもの。
調理師の渡辺郁雄さんの指導の下、包丁を持った小学生は慣れない手つきで肉をさばいていく。一班に6人から7人。3班に分かれた子供たちは、ピザと併行してワンタンを作る作業もしなければならず、「テキパキと動かないとダメだよ。分担してやらないと終わらないよ」という渡辺さんの声に表情は真剣そのもの。
およそ2時間の実習で3品が完成し、それぞれ自分たちが作ったシカ肉料理を頬張った。この日、エゾシカ料理を教えた渡辺さんは、「料理をすることは、創造力を高めること。しかもおいしく味わうことができるので、それは他の人にも楽しみを与えることになる。特にエゾシカ肉は北海道の特産なので年に3日くらいは食べてほしい」と説明する。
また、料理教室に初めて参加した北光小学校6年の金本希咲さんは、「シカ肉は大きくて切るのが大変だったけれど、食べてみるととてもおいしかった。また参加してほかのシカ肉料理も作ってみたい」と話す。
ところでNPO法人エゾシカネットが子供を対象にしてエゾシカ肉料理教室を開いたのは今回が初めてだという。「これまで大人や親子を対象にした料理教室は数回行っていたのですが、子供だけの参加は初めてです。というのも親子だと子供が親に頼ってしまうことが多い。子供たちが自ら料理することで料理の楽しさとシカ肉のおいしさを味わってほしかった」と水沢理事長は語る。一方、NPO法人エゾシカネットの設立のきっかけについて同理事長は次のように話す。
「設立は今から2年半前の2015年春。エゾシカの増加で今でも農業被害は甚大で交通事故も多く大きな社会問題になっています。一方でエゾシカ肉は貴重なタンパク資源で、ヨーロッパなどでは大切にされています。そうしたシカ肉を道民の皆さんにたくさん食べてもらいたいと思ってNPO法人を立ち上げました」
一時、絶滅が危惧されたエゾシカは禁猟措置が取られ回復したものの、高い繁殖力によって数を増やし2010年には65万頭と推定された。現在は45万頭と減少傾向にあるが、それでも農業被害(平成24年度63億円)、交通事故も年間で道路、鉄道合わせて4000件以上、その他に森林被害などが多数報告されている。北海道は個体数を管理するためハンターなどによる駆除を進めているが、ハンターの高齢化など課題もある。
水沢理事長によれば、「かつてはハンターに撃たれたシカはそのまま放置されているのが実情でしたが、とてももったいないこと。適正に処理すれば立派な食資源になり、環境保全にもつながる」と語る。
NPO法人エゾシカネットではシカ肉を使った料理教室の他にも、エゾシカの角を使った工作会や絵本作りなどを積極的に開催し、動物園や他のボランティア団体と連携しながらエゾシカを中心とした野生動物との共生を考えている。