15年間続くチョウの個体識別、地道な活動が道徳の副読本に
石川県宝達志水町立・宝達小のアサギマダラのマーキング活動
石川県宝達志水町の町立宝達小学校では、渡り鳥のように長い距離を飛ぶチョウのアサギマダラのマーキング活動を続け、個体識別をしている。その活動が来年度から始まる道徳教育で、小学5年生向けの道徳科副読本に紹介されることになった。子供たちは地道な活動が全国に紹介されることに期待を膨らませている。(日下一彦)
鹿児島県奄美群島・喜界島の小学校と交流も
副読本では『大空の郵便屋さん』のタイトルで、4㌻にわたって紹介される予定だ。物語風に構成され、夏休みに同町の祖母の家に遊びに来た兄弟が、近くの宝達山(ほうだつさん)の麓で虫取りをしていると、羽に落書きされたチョウを見つけた。
さっそく家に帰って、「おばあちゃん、ひどいことする人がいるんだよ。こんなにちっちゃなちょうに落書きがしてあるんだ」と見せると、祖母はにっこりと微(ほほ)笑んで、そのチョウがアサギマダラだと教えてくれ、落書きの意味を宝達小学校に通う近所の6年生に聞いたらよいと紹介してくれる。そこで学校に行って先生からマーキング活動を教えてもらい、自分たちもマーキングして自然を慈しむ心を育んでいく、というストーリーだ。(株)学研教育みらい(東京)から出版される。
宝達小学校は金沢市から北へ30㌔ほど離れた能登半島の付け根に位置している。学校の東には同半島の最高峰・宝達山(標高637㍍)、東京スカイツリーと、ほぼ同じ高さだ。同校のマーキング活動の始まりは15年前にさかのぼる。当時の町長から、学校で子供たちもやってみてはどうか、と勧められ始まった。以来、毎年9月に3年生以上が山に入り、チョウを捕獲している。
今年も9月13日、14日の両日、山頂付近まで登った。13日は3、6年生26人が26頭を捕らえ、翌日は4、5年生21人で3頭捕獲した。捕獲の仕方が面白い。白いタオルをぐるぐる回すと、タオル目がけてアサギマダラが飛んで来る。それを網で捕まえる。
アサギマダラの羽は鱗粉(りんぷん)が他のチョウより少なく、羽も丈夫なので、マーキングしても飛翔に影響しない。油性ペンで「ほうだつ、日付、名前」を記入し、書き終わるとそっと空に放つ。同校では、上級生は捕まえたアサギマダラを下級生に手渡してマーキングするようにしている。
アサギマダラは10㌢ほどの大型のチョウで、渡り鳥のように長い距離を移動する。春は南から北上して日本にやって来る。逆に秋になると南下する。アサギマダラがどのくらいの距離を飛ぶのか、どうしてそんなに遠くまで移動するのかなど、不思議な生態はまだ分かっていない。他にも3000㍍級の山を越えたり、海を越えて2000㌔余り飛ぶことが観察され、“謎”の多いチョウだ。マーキング活動は全国的に広く行われている。
同校で毎年6月、3年生に捕らえ方やその生態を教えている堀千恵子さんは、「チョウの生態も面白いですが、マーキング活動を通して出会う人たちとの交流も楽しみです」と話している。堀さんは同校に長年勤務し、当初から子供たちと一緒に活動を続けてきた。9月になると事前に山に登り、その年のチョウの飛来状況などを調べ、子供たちの活動をサポートしている。
今年は3年生の男児がマーキングした個体が、1カ月余り後に約200㌔離れた京都市大原で再捕獲され、その知らせが学校に届いた。これまでにも宝達山から約1200㌔離れた鹿児島県奄美群島の喜界島で見つかり、それが縁となって喜界小学校との交流が今も続いている。大西保校長は「日本地図を広げて子供たちに捕獲された場所を示すと、こんな遠くまで行ったのかと驚いています。夢の広がる観察ですね」と語り、目を細めている。