ふるさとに愛着を抱く子供に
小中高一貫ふるさとキャリア教育推進事業
北海道教育庁学校教育局長 北村善春氏に聞く
人口減と過疎化に苦しむ地方自治体にとって、地方創生は地域の生き残りを賭けた不可欠のテーマになっている。そうした中で北海道教育庁は、地域の小中学校、高校が地域を含めて連携し体系的な教育課程を編成し実施することで、子供たちが郷土への愛着を身に付け、地域とのつながりを深める「小中高一貫ふるさとキャリア教育推進事業」を進めている。3年間の限定事業だが、同事業の成果と課題、今後の目標などについて北海道教育庁学校教育局の北村善春局長に聞いた。
(聞き手=湯朝肇・札幌支局長)
地域の未来を担う人づくり
人口減少の著しい北海道ですが、「小中高一貫ふるさとキャリア教育推進事業」の基本的な柱は何でしょうか。

昭和34年9月生まれ、長野県出身。二松学舎大学卒業。北海道教育庁生涯学習部高校教育課指導主事。北海道岩見沢農業高校教頭。北海道静内農業高校長。北海道清水高校長。日高教育局長。28年、北海道教育庁学校教育局長に就任。
この事業は3年間の限定事業として平成27年度からスタートしました。地域の未来を担う人材を育成するというのが大きな目的です。そのために自治体や地元関係機関と連携を取りながら、小中高間で体系的にキャリア教育を進めていくのがこの事業の趣旨となっており、具体的な事業は二つの大きな柱で構成されています。
一つの柱は、地域の良さや地域で生活することの意義を、体験を通して学ぶ「地域ダイスキ!プロジェクト」。もう一つの柱は、家庭や子育てへの理解を深める「子どもダイスキ!プロジェクト」です。前者の「地域ダイスキ!プロジェクト」は、子供たちが小中高12年間の中で体系的に地域の特性を学びながら、郷土への愛着や理解を深めていきます。
また、小中高の学びのつながりの中で、キャリアノートを作成しながら自分の将来や職業を考えていくという取り組みです。
一方、後者の「子どもダイスキ!プロジェクト」は、子供たちがちょっと先の未来を見据え、地域で暮らす人々と接しながら、家庭や子育てなどについて考え取り組んでいくプロジェクトです。
このプロジェクトは高校生が中心となりますが、子育てをしているお母さんたちの所に出向き、家庭や子育てに関する座談会を開いて意見を交わしたり、赤ちゃんを抱っこしたりするなど、触れ合いや体験を通して少子化の現状や課題、あるいは、家族や家庭の在り方を学ぶというように次代の親になるためのプロジェクトになっています。
これまで、この事業のように地域の小中学校、高校が連携しながら一貫して取り組むことはあったのでしょうか。
小中学校、高校が12年間通しての連携を持ちながら一貫して授業を進めるということはなかったと思います。もちろん、それぞれの学校が、教育課程編成の段階で子供たちの成長や地域の実態に合わせて、地域や小中学校、高校との関わりを意識したキャリア教育は行われていましたが、地域を巻き込んで小中高が一貫して体系的にキャリア教育を進めていくのは今回が初めての取り組みです。
子供たち自身は、小中高とつながって成長していきますから、その学びの場も相互につながっていかないと困るわけです。まして子供たちは地域ともつながっているので、一つの学校だけで全てを行うのは不可能です。やはり、地域の人も子供の教育に関わり、地域の人たちの人づくりへの期待を学校に入れて、子供たちを育てていくようにすべきです。
そうすると学校と地域が一緒になって、地域が子供たちの成長を期待しながら見詰めていくことになります。それが小中高12年間の一貫したキャリア教育であるし、学校と地域が一体となるという意味での一貫教育と捉えています。
子供たちが地域に愛着を持ち、良さが分かれば、人口減へ歯止めを掛けることが可能になっていきますね。
人口減少が進んでくると地域に住む人が減っていき、子育て世代が流出していきます。少子化が進み、子供の数が少なくなれば当然、地域を担う人がいなくなります。
この事業が、そうした人口減少を完全に止められるとは断言できませんが、少なくとも、子供たちが幼い頃から生まれ育ったふるさとをしっかり見詰め、ふるさとの良さや課題を知り、さらに、ふるさとが自分の人生の基盤であるという実感を持ってもらうことは、とても重要なことだと考えています。
「小中高一貫ふるさとキャリア教育推進事業」に対する地方自治体や地方の経済界など地域の反応はどうでしょうか。
各地の反応はそれぞれさまざまですが、おおむね関心は高いように思います。
この事業は、研究指定校を選定して行っていますが、例えば、宗谷管内では、宗谷総合振興局の事業と本事業とをうまく連動させ、利尻高校の高校生が中心となって作成した「宗谷ひと図鑑」を同管内への移住のための啓発資料として積極的に活用しており、さらに、研究指定校にはなっていない他の高校が中心となって第2弾、第3弾の「宗谷ひと図鑑」を作成していくなどの広がりを見せています。
この他にも、檜山管内では檜山北部の小中高生が同町の魅力を取材し、それを「檜山ウォーカー」としてウェブで発信しています。
また、根室管内の羅臼町では、世界遺産である知床半島の良さを自ら取材してパンフレットを作成し、道の駅で配布し好評を博しています。子供たちは、単に調べたことを発表するだけでなく、自分たちのしたことが地域の発展に貢献して役立っているという実感を持つことができれば、それは自己肯定感につながり、教育的効果は非常に大きいものがあります。
今年の10月31日には、「北海道キャリア教育サミット」を開催するそうですが、これはどのようなものなのでしょうか。
札幌市内のホテルで行うことになっています。「小中高一貫ふるさとキャリア教育推進事業」に関わった児童生徒が、3年間の学習成果について報告し、互いに情報を共有しながら、さらに取り組みが広がっていくことを目的に開催します。いうなれば、3年間の事業の集大成と位置付けています。企画については、この事業に関わった生徒に主体的に関わってもらうこととしており、当日の運営も生徒が中心になって進めていきます。
また、報告といっても単にやってきたことを発表するのではなく、ディスカッションを通して、これからの自分たちに何が必要なのか、あるいは、身に付けたことをこの先どのような場面でどのように生かしていくか、子供どもたちが、プロジェクトを通して獲得したこと、成長したことを実感できる場にさせたいと考えています。





