人生の分岐点で選択する力を育む

道徳授業パワーアップセミナー

 新学習指導要領の全面実施(来年度)を目前に控え、全国から小中学校の教師が集い「特別の教科」時代の道徳授業を考え、議論する「道徳授業パワーアップセミナー」が東京都小金井市の学芸大学で開かれた。同大学の永田繁雄教授は「校長を先頭に教師と生徒が本気で取り組める教材の作成・授業の実践」が必要不可欠だと語った。(太田和宏)

東京学芸大・永田繁雄教授が講演

やる気伝わる「自前」の教材作りも

人生の分岐点で選択する力を育む

道徳の授業の在り方を語る永田繁雄教授

 道徳が教科化されるということは「全てに何らかのテーマを持って、きちんとした内容に担保されているか、ということが今まで以上に求められる。だが、教師は、これを足枷(あしかせ)と思ってはいけない。それが教科の良さでもあり、当然、私たちがやらなければならないこと」と永田氏は訴える。

 これまで、小学校低学年時代に興味を持った道徳授業が中学年、高学年、中学、高校と学年が上がるにつれ、「教師の話が一緒」「結論が同じ」「正解が無いのに何故、勉強」「授業が面白くない」という児童・生徒が増える傾向(文部科学省報告)にある。

 授業が形式化され、授業に力が入らない先生、関心を失った児童・生徒という構図から脱却するには、特定の指導方法を絶対視せず、児童・生徒を主役に、柔軟でバランスの取れた指導、教材の開発、実践が必要になる。弾力化・活性化を求めて一生懸命やると、児童・生徒の反応も良くなり、教師も手応えを感じ、やる気になる。

 質の高い多様な「指導方法」として①読み物教材の登場人物への自我関与が中心の学習②問題解決法的な学習③道徳的な行為に関する体験的な学習――の三つを示し、問題解決の道を示し、体験的に自分のものにする。永田教授は「これらを連携的に相互関連を持たせながら指導しなければならない」ことを指摘した。

人生の分岐点で選択する力を育む

 「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)について、「主体的」は教師の方向付けにとどまらず、児童・生徒が自ら問いを持つ。「対話的(協働的)」は共感にとどまらず主人公の気持ちを問い続けると共感疲れを起こすので、主人公の視点で葛藤や感動の気付きを深める。「深い(能動的)学び」は多様な考え、感じ方を並べることに終わらず、多面的(ひと事に近い)・多角的(自分事に近い)な感じ方、考え方を討議して学びを深め、「道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てる」ことが重要だ。

 これらを踏まえて、教材の在り方について、教科書と地域(郷土)教材、現代的課題の教材等を併用し、教科書は年間の見通しを持ち、計画化を図るためにも活用したい。地域教材や放送教材、教師の個人開発資料など、学校・郷土の特色を踏まえた授業づくりには欠かせない。話には「起承転結」があるが、「起承転」で話を終え、「さあ、どうしよう」と結論を児童・生徒に考えさせることも重要。教師が資料を開発し授業を楽しむことができれば最高だ。

 各学校での課題として、校長を頂点にして、課題と特色を押さえ、校長の方針を明確化し、全体計画、年間計画、学年計画などを作り、教師たちが一体となって、推進教育を担う教師の役割を明確化した推進体制づくりが挙げられる。また、全校の教師が主体的に関わる協働体制をイメージして具体化する必要がある。

 評価について、学習指導要領などによると、「数値などによらない評価を継続することとした。学習状況や道徳性にかかわる成長の様子を把握し、指導に生かすよう努めること。ただし、数値などによる評価は行わないものとする」となっている。教材の開発、授業の改善・充実に伴って見える児童・生徒の“見取り”を評価することが重要になってくる。

 「大人の価値観を押し付けて、これが正解だよ、という教材では駄目。映像作品や著書には作者の価値観が反映している。授業の結論が、子供の価値観の反映であり、生涯の学び・働く中で児童・生徒が人生の分岐点に差し掛かったとき、どの道を選択するのか、道を選ぶ力を身に付けさせてあげることが必要だ。そういった力を育んでいかなければならない。子供の育つ力を信じ、諸価値の理解を深め、児童・生徒が突き当たり、自己を見詰め深く考えるような手応えのある授業をしてください」と永田教授は講演をまとめた。