ヒアリの沖縄上陸阻止に万端
「OKEON美ら森プロジェクト」がシンポ
神戸や名古屋など日本の主要港で猛毒性が強いヒアリが発見されたことで、侵入や繁殖を防ぐための取り組みが急務になっている。早くから取り組みをしている沖縄県では、沖縄科学技術大学院大学(OIST)が中心的な役割を果たしている。生態系のモニタリングを含めた徹底的な水際対策がこれまで奏功している。(那覇支局・豊田 剛)
沖縄科学技術大学院大学、環境モニタリングで水際対策
沖縄では7月末の時点でヒアリの存在は確認されていない。OISTが昨年から対策事業を県から受託し、那覇港コンテナヤードに39人を派遣。ボランティアの連合チームが調査している。全国に先駆けて展開している地域密着型のヒアリ対策だ。
これは昨年始まった「OKEON美(ちゅ)ら森プロジェクト」の一環。OISTの生物多様性・複雑性研究ユニットが牽引(けんいん)し、社会協働型で環境をモニタリングしている。プロジェクトは、自然・環境の変化や人為的な要因が生物多様性に現在から未来にわたって与える影響を理解することを目標としている。
沖縄本島全域の24カ所に飛翔(ひしょう)性昆虫捕獲器(トラップ)、気象観測装置、カメラ、音声装置を設置し、2週間ごとにデータ回収している。そこから集まる小さな昆虫のサンプルを基に、環境の研究をしている。多い時では1万個体が集められたという。トラップは那覇港と石垣港にも設置しており、これまで700万個体超の昆虫が採集された。こうした取り組みには県、博物館、大学、高校、企業など70以上の組織が協力している。
7月29日、「OKEON美ら森プロジェクト」シンポジウムがOISTで開催され、プロジェクトに携わる各機関の代表者らが参加し、意義や成果を発表した。
プロジェクトを統括するエヴァン・エコノモOIST研究員は沖縄の生態系の現状およびプロジェクトの概要を説明。「沖縄は自然環境と生物多様性が豊かで、ヤンバルクイナ、ノグチゲラ、クロイワトカゲモドキなど希少生物の宝庫だ」と評価する一方、「面積が狭く、自然環境は脆弱(ぜいじゃく)で、南部地域で特に生息環境が劣化している」と指摘した。
沖縄の生態系を脅かす外来種として、ネズミやハブの駆除目的で持ち込まれたジャワマングースが有名だ。また貨物に紛れ込んで侵入したツヤオオズアリ、ドブネズミ、アリモドキゾウムシがいる。エコノモ氏は「沖縄ではこれまで蓄積されたデータがないが、プロジェクトを進めることで20年後、30年後にデータが残る」と期待を示す。
プロジェクトコーディネーターの吉村正志氏は、生物多様性が失われる主な要因ついて①大規模開発②過疎化(人間が維持した環境が廃れることで生物が追われる)③外来種④気候変動――を挙げた。
吉村氏は、沖縄の生物多様性と観光は無関係ではないと強調する。沖縄を訪れる観光客は右肩上がりで、観光客への意識調査では「海の美しさと亜熱帯の景観」に特に強い満足度が示されているという。そのためには、「学校、博物館、行政(県)が協力関係を築いて、いかにウィンウィンの関係を築いていくかが大事」と訴えた。
プロジェクトに協力する高校生らも報告した。沖縄本島最北にある辺士名高の生徒は過去1年以上にわたるアリ類研究の成果を発表した。「296種類のうち113種類のアリが沖縄本島に生息している」とし、中でも外来種アリの環境適応能力が高いことが分かったと報告した。
鹿児島県の池田高校のアリ研究チームは、2012年から5年間、南日本の港における外来アリのモニタリングをしている。これまで小笠原諸島でしか確認されていなかったウスヒメキアリが、南西諸島で初めて見つかったと報告。また、外来アリは南方になるほど多いというデータをまとめた。
シンポジウムでは、ヒアリの第一人者で「兵庫県立人と自然の博物館」の主任研究員の橋本佳明氏がヒアリについて詳細を報告した。橋本さんは「世界の侵略的外来種ワースト100選定種のひとつがヒアリで地域自然と文化の破壊者だ」とし、現在はヒアリの見分け方など情報発信に奔走している。自然博物館の重要性について橋本氏は「博物館の蓄積されたデータやサンプルの数は大学を上回り、専門性が高い」と説明した。
OISTは、OKEONを通じて大人の昆虫に対する関心が高まることに期待を示している。







