地図をテーマに、日本地理学会が例会を開く
新学習指導要領の中で示されている「表現力」を小学校、中学校、高等学校での地理教育、特に「地図の表現力」をいかに育んでいくかをテーマに早稲田大学(早稲田キャンパス)において、日本地理学会の6月例会がこのほど行われた。(太田和宏)
前東京書籍株式会社・福田行高氏
自由な発想・作成、成長が楽しみ
環境地図に見る小学生の地図表現
「私たちの身のまわりの環境地図作品展」に見る小学生の地図表現力の審査を通して地図教育の現状と課題について前東京書籍株式会社の福田行高氏は「年々水準が高くなっている。親や先生が主導権を握って作成されたものもあるが、児童・生徒ならではの視点に立った調査方法が取り入れられている。悪いとまでは言えないが、最近は、スマホで撮影した写真を張り付けしたものが多くなった」と寸評を加えた。
「私たちの身のまわりの環境地図作品展」は1991年に開催された「環境変化と地理情報システム国際会議」の付帯事業として北海道旭川市を会場に始まったことから道内を中心に応募があった。27回と回を重ねるごとに首都圏の応募も増え、アジア諸国(インターネットを通じて)からの参加も散見されるようになった。
審査の基準の基本条件として①地図として表現②環境を取り扱う③自分で観察・調査した結果を表現する。作品の優劣評価は①発想・視点・アイデア②環境調査が行き届き、年齢相応③調査の成果がはっきりしている④図の表現が優れている⑤高校生部門では方位、縮尺など地図に必要な表示がある――など。
テーマとして多いのは学校周辺の遊び場、公園、友達の家、ペットの様子が多く23%。続いて草花、樹木、農業の様子17%。交通信号や交通量、川やため池、ごみの収集、水質などもある。子供の成長に応じて、徒歩圏内から自転車圏内、交通機関を使った圏内へと段階的に着目範囲が広がっていく。
今後の課題として福田氏は「社会科だけで時間を取るのは難しい。総合的な学習や他の時間を融通してはどうか。子供が自由な発想から作成するオリジナルな地図を生かすことにつながる」と子供たちの成長を見守る。
筑波大学付属中学校・関谷文宏氏
考察・構想を表現できる生徒育成を
FIJに見る中学生の地図表現
全国中学校地理教育研究会(全中地研)との共催で毎年実施している全国中学校生徒地域研究発表会(フィールドワーク・イン・ジャパン:FIJ)に参加した筑波大学付属中学校の生徒たちが、学校所在地の東京都文京区の身近な地域調査と調査能力・地図表現力の実態と指導・評価の在り方を関谷文宏氏が紹介した。
指導計画を作成する段階で、地図を活用したり、地形図などを読み解く時間を授業時間内で割り当てているが、分布図や主題図を自ら作成する授業時間を確保することは難しい。身近な地域の調査リポートを提出させても、地図化することで、調査結果や地域の課題が分かりやすく示された作品は少なかった。
地域調査の質が向上したのは、JR山手線の大塚駅周辺がコンビニ激戦区になっており、駅から半径500㍍範囲の店舗数を調査し地図化した時だった。周辺住民の家族構成、地形的な要素を含めて、聞き取り調査を行い、JR山手線の他駅との比較、検討もした。似ている渋谷駅は周辺に高層ビルや大型店舗が多く、地価が高いので、コンビニ店舗の集中はドーナツ形になっていることなどが分かった。
「見やすさ」「単純明快さ」が生徒を導くための重要な鍵になっている。地域の特性を多面的に考察するためのきっかけになった。
地域の地図作成に関して、次期学習指導要領では中学1年の終わりか2年の初めに「地域調査の手法」で学ぶことになる。「地域の実態や課題解決に向けての調査であり、単に手法が分かればよいとするのではなく、身近な地域への関心を高め、問題解決への考察・構想を表現できるような生徒を育てていきたい」と関谷氏は抱負を語った。