いじめ・自殺僕滅運動、地域を巻き込み国民運動に
「再チャレンジ東京」理事長 平林朋紀氏に聞く
いじめが原因とみられる児童・生徒の自殺が後を絶たない。一方で、教育委員会や学校の隠蔽(いんぺい)体質も浮き彫りとなり、問題の改善にはほど遠い状況だ。いじめ・自殺撲滅には何が必要なのか。青少年のいじめによる自殺防止活動を行っている「再チャレンジ東京」理事長の平林朋紀さんに、聞いた。(聞き手=社会部・森田清策)
命を守る“道徳特別授業”/体験者による作文朗読も
大人が子供に無関心になった
「再チャレンジ東京」設立の経緯は。

ひらばやし・ともき 長野県佐久市出身。公明新聞記者、理論誌「公明」編集長、公明新聞1面コラム「北斗七星」を15年間執筆。定年後、平成19年10月、NPO法人「再チャレンジ東京」を設立。日本ペンクラブ会員、長野県人会連合会理事。
10年前に設立した。当時は、バブルがはじけた後で、自殺する中小企業の経営者が多かった。闇金融などから借りた金を、保険金で払うためにね。それで、弁護士、会計士、経営者らでNPOを設立し、経営者の自殺をなくそうと、事業再生のためのセミナーを開いたりして支援した。
5年あまりの間に、約3000人の経営者が相談に来たが、その中からは1人も自殺者が出なかった。
それがいじめ・自殺の防止に変わったのはどうしてか。
自殺者が当時、毎年3万人を上回る状況が続いていた。今は約2万2000人に減ったが、恐らくそのうち1割から2割は子供。実はこれが最も深刻な問題だ。
しかも、学校は親に対して事故死や病死にしろ、と言って隠す。中には、「『引っ越した』と言え」というケースもある。こんなことは撲滅しないといけない。放っておくわけにはいかないから、子供のいじめ・自殺問題に取り組むようになった。
具体的にどんなことを行っているのか。
2014年から、作文コンクールを続けている。この他、昨年は標語、ポスター、ゆるキャラも募集し、いじめに遭った子供などから約2400作品の応募があった。例えば、16年度の最優秀賞では、標語は「あなたの言った一言が友の命を奪うかも」「みてるだけ それも立派ないじめです」などだった。ポスターはパンダが頬をつねられているイラストを中心にした作品だった。
最優秀作品のポスターと標語は、東京都内の小中高校2154校に配布し、子供たちの目に触れやすいところに貼ってもらっている。また、長野県下の680校、島根県出雲市内の学校約60校にも配った。費用を寄付してくれる人がいたので、可能となったことだ。
この他、学校でいじめについて考え、命を守る“道徳特別授業”を行っている。その中で、作文で最優秀賞を受賞した人がいじめで苦しんだ体験をつづった作品を朗読すると、児童・生徒の意識が変わる。
例えば、次のような感想文が寄せられている。
「いじめられている子は、学校ではなにもないように平然でいるけど、本当は、心の中では、すごくなやんでいることがわかった。これからは、相手のことを考えて接することに気をつけたいです」(6年生男子)
一番の問題は第三者。いじめ問題には当事者の他、見て見ぬふりをする人の存在がある。その人たちが教師や親などに伝えることが大事だから、いじめはみんなに関係があることを訴える授業をやっている。最後に、食と心の関係の話をする。
食がいじめに関係している?
ミネラルが不足すると、うつ病の症状が出たり、問題行動につながることがある。煮干しや海藻、アーモンドなどを食べると、ミネラルを補給できるが、コンビニ弁当を食べてばかりいると、不足する。これを子供たちに教える。
問題は学校教育だけか。
昔は頑固おやじがいて、子供たちを叱ったりした。今は全くそういうことがなくなった。公園で夜遅くに遊んでいたり、コンビニにいたりしても大人は知らん顔。そうじゃなくて、地域で子供たちを育てていこうという意識も必要だ。
だから、“拡大版道徳授業”を行っている。教師、保護者、地域の町会長、保護士など、学校や地域の公民館などにさまざまな関係者を集めて命を守る授業を行い、いじめの原因などについて考えてもらっている。
日本はいじめが多く、しかも自殺率が「世界でワースト6位」(厚労省発表)。日本の社会に特有の問題がある、との指摘がある。
いじめが原因の自殺はないという国があるが、楽天的な民族性や生き方が関係していると思う。それからもう一つ、死生観の問題もある。死ねば苦しみから逃れられて楽になるという考え方だね。そこが問題だ。
死生観についての教育がない。
全然ない。どこの宗派かではなく、命とはどういうものかを訴えて、子供たちに分からせるようにする必要がある。そこをしっかり伝えないといけないのだが、教育界がグチャグチャになっている。
例えば、文部科学省の官僚のトップが夜な夜な歌舞伎町に遊びに行っている。日本教職員組合(日教組)の委員長もダブル不倫で辞任した。教育界のトップがそんなんだから、下は推して知るべしだ。
日本の将来を背負う子供たちの教育を担う教師は「聖業」だ。ところが、今は「サラリーマン」と思っているから、将来の日本を背負って立つ子供たちを育てるという意識が希薄だ。それには文科省や政治に責任があるし、日教組の責任も大きい。
これからの目標は。
交通事故で亡くなる人はかつて、年間1万6000人もいたが、最近は4000人まで減少している。それは交通事故防止を国民的な大運動として展開したからだ。
いじめと言えば、今は教師や保護者、子供だけが関わっているだけだが、私は交通事故死を減らしたように、最終的にはいじめ・自殺撲滅を国民運動にしなければいけないと思っている。食の問題なんかもちゃんと入れてね。





