“若い力”が奉燈の担ぎ手に
「能登キャンパス構想推進協」の祭り体験
石川県の能登地域を一つの大学キャンパスに見立て、教育や研究を促す「能登キャンパス構想推進協議会」では今夏、石川県内の大学生を対象に、短期間の祭り体験を行うことになった。8、9月に奥能登で行われる四つの祭りが対象で、応募した学生たちは祭りの数日前に現地に入り、地元の人たちと共に準備段階から参加する。高齢化が進む地域だけに、“若い力”は伝統神事の担い手として期待される。(日下一彦)
金沢大学と石川県、奥能登2市2町が連携
参加した大学生たちは地域の特性や魅力堪能
能登半島は「祭りの宝庫」と言われ、夏は各地の集落で躍動的な祭りが受け継がれている。特に半島の先端、奥能登地方では神輿(みこし)とともに、キリコと呼ばれる奉燈(ほうとう)が、屈強な男たちに担がれて集落を乱舞する。ところが近年、担ぎ手の高齢化などで、祭りの存続が危ぶまれる地域が増えてきた。
高齢者ばかりで中止せざるを得なくなったり、キリコを担ぐ人数が集まらず車を付けて引いたり、苦肉の策として、祭礼の日に田んぼの真ん中にキリコを組み立てて灯(あか)りをともすだけの地域も出てきた。県によると、ここ十数年の間に60余りの集落でキリコ祭りが消えたという。「能登のキリコ祭り」が2年前に日本遺産に認定されているだけに、存続に向けての対策が急務となっている。
今回、短期間の祭り体験を実施する「能登キャンパス構想推進協議会」は、平成23年3月25日、金沢大学と石川県および奥能登の2市2町(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)が連携し、高等教育機関のないこの地域を一つの大学キャンパスに見立てて、教育や研究を促す目的で設立された。現在、県立大学、県立看護大学、金沢星稜大学も加入している。
祭りへの支援は、これまで金沢大学や金沢星稜大学がゼミ活動の一環として取り組んできた。参加した学生たちの感想を見ると、おおむね新鮮な感覚で捉えている。祭り初日は朝5時ごろに起床し、氏子と共に神社を掃除し、その後倉庫に保管されたキリコ本体を出して組み立てる。キリコは5㍍ほどの高さになり、完成すると沿道に提灯(ちょうちん)を取り付けて準備を終える。そして午後からキリコを担ぎ、夜まで練り歩く。集落の人たちとの交流も心に刻まれるようで、「人情味あふれる出会いや交流、美味(おい)しい山海の特産物など、能登の魅力を堪能できた」と記している。
今回の祭りの担ぎ手の募集では、祭りへの参加を通じて、地域の特性や魅力、祭りの背景・実態、そして地域の課題などについて学ぶとともに、奥能登地域の魅力を発信し、地域の課題の解決策に取り組むことを目指している。
対象になっている四つの祭りを開催順に見ると、穴水町沖波の「沖波大漁祭り」は8月14日(月)、15日(火)に行われ、海の安全と大漁を祈る。5本のキリコがカネや太鼓に囃(はや)されて町中を練り歩き、翌日がクライマックス。担ぎ手はキリコを海中へ担ぎ込み、胸まで海に浸かって豪快に暴れ回る。能登町矢波の「矢波諏訪祭り」は8月15日(火)、16日(水)で、キリコが町内を巡行し、祭礼後、能登で唯一とされる「力比べ」の見せ場があり、キリコ3台を縄で結び、担ぎ手が押し合って力を競う。
輪島市門前町黒島の「黒島天領祭り」は8月17日(木)、18日(金)に北前船の交易で栄えた黒島で行われ、海上安全と五穀豊穣(ほうじょう)を祈願する。大阪城と名古屋城をかたどった豪華絢爛(けんらん)たる曳山と子供の奴(やっこ)振り行列が見ものだ。さらに、珠洲市三崎町粟津の「粟津の秋祭り」は9月12日(火)、13日(水)で、神輿のお供に「太鼓(たいこ)山」が随行し、キリコと共に町内を巡行する。この太鼓は珠洲の祭りの原点と言われている。募集は20~50人で、地元では卒業後も、リピーターとして訪れることに期待を寄せている。